金子 弘昌「誰にも負けない努力」
1.化学工学の研究者
どんなに優れた性質や機能をもった製品でも,それを製造する設備がなくてはつくり出すこともできない。
製品を生産する量が多くなればなるほど,その製品をどのように製造するかが重要な問題になってくる。
十分な検討をすることなく製造が行われてしまえば、求めていた成果が得られないだけでなく、つくられた製品が人体や地球環境に影響を及ぼす可能性だってあるかも知れない。
どんな方法が、生活に役立つ製品をつくり出すための最も効率の良い方法なのか、どんな装置をつくってどのように運転すれば良いのか。
そんな疑問に答えるための学問として20世紀初頭に誕生したのが、「化学工学」だ。
明治大学理工学部応用化学科で准教授として勤務する金子弘昌(かねこ・ひろまさ)さんは、こうしたデータ解析や機械学習による分子設計、材料設計、プロセス設計、プロセス管理・制御についての研究を続けている。
「学校の先生になるつもりだった」という少年は、なぜ研究者の道を目指したのだろうか――――。
2.テニスに打ち込んだ青春時代
金子さんは、1985年に栃木県足利市で3人兄妹の長男として生まれた。
「小さい頃から勉強が得意で、特に算数や理科が好きでした。父親がレスリングで大学へ入った体育会系の人だったんです。だから、家の中に本がたくさんあったわけでもなくって、分かってくると、どんどん勉強が楽しくなった感じなんです」
小学生の頃は、サッカーや野球など地域の少年チームへ所属し、勉強でも一目を置かれる存在だったようだ。
そのまま足利市内の公立中学へ進学し、サッカーや野球などは苦手だったため、別の球技として選んだのが軟式テニスだった。
「勉強と同様にテニスもやればやるだけ結果が出ることは分かっていたので、素振りしたり家の周りを走ったりと夢中になって練習していました」
努力の甲斐もあって、市内で優勝することができたようだ。そして、中学校でも勉強は学年で常にトップだった。
「将来は、学校の先生になりたいなという夢を抱いていたこともあります。合唱コンクールのときなど、クラスの皆と一緒になってワイワイしたり頑張ったりすることが好きだったんです」
3.もっと高みへ
中学卒業後は、家から近い県立高校へ進んだ。
文系・理系のほかに英語と理数科目に重点を置いた「国際数理コース」に所属し、勉強に励んだことで、いつも成績は上位を維持することができた。
進学校だったため、部活動が中心の生活とはいかなかったが、ここでも軟式テニス部に入部して汗を流した。
同学年でも2人しか所属していない少人数の部活だったため、ダブルスの試合に出るときは、先輩とペアを組んだり友だちを連れてきたりと色々工夫していたようだ。
まさに文武両道の名の通り、勉学とテニスに打ち込んだ高校生活だった。
将来は高校教師を目指していたが、「せっかくなら、もっと上を目指してみろ」と担任から受験を勧められ、必死に勉強した結果、東京大学理科1類に現役で合格することができた。
「もともと数学が得意だったので、数学科に行こうと考えていたんですが、入学してみると上には上がいることを思い知りました。そこで環境に興味があったため、化学工学を学ぶことにしたんです」
4.研究者の道へ
大学時代もサークルで軟式テニスを続け、六大学対抗戦の団体戦では2位になったこともある。
「卒業後は環境省に入ろうと思っていたんですが、採用試験で落ちてしまったので、研究者の道を目指すことにしたんです」と金子さんは当時を振り返る。
東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻で2年間の修士課程を終えたあとは、同大学院の博士課程へ進学。
3年間の修学期間のはずだったが、半年早く2年半で博士課程を終えることができた。
そして、東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻で5年半の間助教として勤務したあと、現在は明治大学で准教授として教鞭を振るっているというわけだ。
金子さんが大学で運営するゼミ「データ化学工学研究室」の特徴は、研究成果そのものも大切だが、学生の成長を重視している点にある。
そして、時間を有効活用してもらうことを学生に体現してもらうため、何時から何時までは研究室にいなければならないというコアタイムを設けてはいない。
さらに、2018年4月からは、社会の高度情報化を推し進める上での両輪となるデータサイエンスとインフォマティクスの拡充を目指すため、無料のオンラインサロン「プロセス・マテリアルズ・ケモインフォマティクス」を開始した。
学生や大学教員、企業の人たちなど、いろいろな立場の方が参加し、slack上で気軽に相談が行われたり活発な議論が展開されたりしており、会員数は現在430名を突破していると言うから驚きだ。
5.誰にも負けない努力
「薬やプラント、人工知能で提案したものを実験で確かめたときに、まだ百発百中というわけにはいきません。実験は不可欠なんですが、環境に悪影響を及ぼす場合だってあるかも知れません。物質も有限ですから、将来的には全てパソコン上で実験が立証されるようなシステムをつくっていきたいと考えています」
金子さんは、自身の研究を大学の研究室だけでなく、オンラインサロンや共同研究、コンサルティングなどを通じて、惜しげもなく広く社会に還元し続けている。
こうしたナレッジマネジメントのもとを辿れば、学生時代に皆とワイワイしながら切磋琢磨した部活動や合唱コンクールが原体験になっているのかも知れない。
そんな金子さんは、「ケモインフォマティクス・マテリアルズインフォマティクス・プロセスインフォマティクスに費やす時間なら誰にも負けません」と断言する。
努力をすることは大切だが、誰かに言われてやる努力はそもそも努力ではない。
誰かと比較するための努力や、誰かに見せるための努力ではなく、金子さんのように自分自身のために努力をすることこそが大切なのだ。
IoT、AI、ビッグデータなど技術の進歩により第4次産業革命の時代を迎え、今後は超スマート社会「Society5.0」実現に向かった動きが加速し続けている。
こうした時代において、いち早く新技術を取り入れたイノベーションを実現することが求められているが、金子さんのような誰にも負けない努力を続けている人にこそ、きっと明るい未来は到来するのだろう。
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