新年のご挨拶となぜ株主提案に踏み切ったのか
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今回は本株主提案についての具体的な話、というよりも本株主提案にまつわるいくつかのとりとめのない話をしていければと思います。
特によく聞かれる質問である「どうして辞めて自分でゼロから会社を立ち上げるのではなく株主提案をしたのか」という点について触れようと思います。
取締役になった経緯とよく聞かれる質問の答え
「どうして辞めて自分でゼロから会社を立ち上げるのではなく株主提案をしたのか」という質問に答えるには私が取締役になった経緯から説明する必要があります。
クシム取締役になった経緯
クシム取締役になった経緯としては前Turingum取締役でKushimの取締役でもあったH氏の話からスタートする必要があります。
H氏はTuringumの共同創業者であり、買収直後からKushimの取締役を兼任しておりました。彼はとても強いリーダーシップを持っていたのですが、翌年にご家庭の事情もあり退任することになりました。
彼がKushimの取締役を退任すると重要子会社であるTurimgumからは一人も役員が出ていないことになり、現場と経営層の乖離が起きることが考えられました。
このことから2022年末に、私含めた何名かのTuringumのメンバーがKushimサイドに対して「H氏退任後でもTuringumの人員を一名は役員に据えてほしい」と依頼しました。
このとき正直私はKushimの役員になると思っていなかったですし、なりたいとも思っておりませんでした。
まず当時はTuringumの役員とはいえ経営サイドというよりも現場の統括に近い平役員だったため上場企業の役員という立場とはだいぶ乖離があるように感じていました。
また、気持ちとしてもあまり役員になりたいとは思っておらず、中川会長・伊藤社長とお話した際も「Turingumから役員を選任してほしいが私自身は経験もなく適任者はいるとおもう」といった話をしました。
このKushimの役員になりたくないという理由として一番大きかったのは「上場会社の役員になるということは株主に対してきちんと責任を持たないといけない。」ということでした。
それだけ大きな責任を持つだけの覚悟や経験が自分にはまだないと考えていましたし、役員としての法的な責任もまた、私に背負いきれるものなのか不安だったからです。(当時はシークエッジとクシムの関係性についてはほとんど何も知らない状態でしたので漠然とした不安でした)
しかし、そんな気持ちとは裏腹に中川会長・伊藤社長からH氏の後任は私にすると告げられました。
かなりびっくりしたのですが、こうなったら経験がないなりに覚悟を決めて株主への責任を全うするべきだと考え、覚悟を決めてから承諾の返事をしました。これが2022年末のことでした。
ところでこれは人づてに聞いた話ですが、この中川会長が私を役員に選任すると決めた一番大きな理由が「やりたがらないやつのほうが結局はきちんと責任を全うするから」とのことでした。
なぜ独立しないのか
このことを前提に「どうして辞めて自分でゼロから会社を立ち上げるのではなく株主提案をしたのか」というよく聞かれる質問について回答したいと思います。
ガバナンスが崩壊しているのであればわざわざ株主提案という面倒なことをするのではなく退職して自分で会社を立ち上げて一からやり直したほうがいいのではないか、とはSNSなどでよく言われています。
この意見は正直一理あると思っています。しかしゼロから会社を立ち上げるのであっても、一度絶対株主の方々に筋を通さないといけないとも思っています。
それはやはり、上場会社の役員をやると決めたからにはそこに投資していただいている株主に対してきちんと説明できないような辞め方はすべきではないからです。
「役員になったときはこんな会社だなんて知らなかった。」という言葉は通用しないと思っています。「こんな会社」ならばどうにかして「もっといい会社」に変える責任を株主や従業員に対して負っているのが上場会社の役員だと考えています。
だから、最初から諦めて退職するという選択肢はありません。
もちろん業界的に追い風が吹いている中で会社を立て直すことができれば株主として成功の果実を手に入れることができるのではないかという観点も多分にあります。
しかしその考えの根底にもやはり上場会社役員としての責任をまっとうすべしという考え方があります。
知の探索と深化
話はガラッと変わってしまうのですが、もう一つ聞かれる質問として「ガバナンス云々はわかったから経営がどう変わるのか教えてほしい」という質問があります。
語ろうと思えばいくらでも語れる話題ですが、ここではサラッとクシムという組織の特性となぜ経営層が変わると組織が変わるのかという概念的な説明をしたいと思います。
クシムという組織の特徴
クシムにはTuringum・Zaif・クシムソフトという三社が事業会社としてあります。そしてWeb3という先端技術分野を中心として活動している会社でもあります。
Turingumは良くも悪くも尖ったベンチャー企業だと思っています。
良いところとしては常に業界を広くサーチしてWeb3についての最新の知見を持っていますし、その人材やサービスについては業界内で一定の評価を得られています。しかしその一方で既存事業とも言うべき安定的な収益源となる事業の創出にまだ成功していません。
組織としてはまだ若く、勢いもありますがどうしても業績に不安定になりやすいです。
一方でZaifはその真逆です。日本で最も歴史のある暗号資産交換業という看板を持ち、安定した事業運営を実現しています。しかし新規のWeb3ビジネスの技術やトレンドのキャッチアップは遅く、変化に乏しい一面もあります。
クシムソフトはSIerとして安定した収益を得ていますし、Turingumで保守等をお願いした際にはきちんとWeb3の技術スタックに追いついて理解する技術力のあるメンバーもいます。
しかし業態上なかなか収益性が高まらないのも事実です。
業界が変化する中で求められること
三社が上記のような特徴を持っている中でWeb3業界はトランプ当選を始めとして、かなり業界の変化が社会的にも技術的にも激しくなっています。
こうした中で収益性を高めて企業として成長するためには最新の業界の変化や技術に対して敏感になる知の探索とそれを既存事業と結びつけて収益に落とし込む知の深化がとても重要です。
この点で言えばTuringumとZaifは完璧に相互補完的です。
Zaifがクシムグループ入り後に即座にEthereum Stakingを実装したり、BabylonのBitcoin Stakingを業界に先駆けてプロジェクト化したことはその証左でもあります。
さらにはこうして生まれた事業をより拡大していくに当たり、Web3や暗号資産関連技術にキャッチアップしたクシムソフトの人材は収益性を高める肝になります。
しかし、このような組織全体を挙げての学習は勝手に実現されるものではなく、経営層がデザインすべきものです。
そのためには業界やその動向に対する深い興味と見識、そして現場で起きていることを吸い上げて理解する能力が必要になります。
少なくとも現体制や現体制が重視している経営アジェンダがこうした組織学習を促すものではなく、むしろ現場のやる気を後退させ足を引っ張っていることは明確ですし、業界に対する見識も高いとは言えません。
今回の株主提案の中で一番焦点を当てているのはガバナンスについてではありますが、これが改善されることで同時に組織としても深く学習し、変化が激しいWeb3業界の中でのトップランナーになれると考えています。