徒然なる打ちっ放し

父は何も喋らない,寡黙な人だ.

いつも母がベラベラ喋る方なので,父は基本的に母の尻に敷かれている.何か文句をいうわけでもなく,自分から何かを提案するなんてなかなかない人だった.

そんな父に打ちっぱなしに誘われた.

実家に帰省した時のことだった.ちょうど二人とも時間があったので家で猫と遊ぶという幸せを噛み締めていると.突然父が喋り出した.

「打ちっぱなしにいかん?」父から何かを提案されたのは初めてだった.

しかし僕は「打ちっぱなしってwww」と笑ってしまった.嘲笑である.僕はゴルフというものをバカにしていた.

僕は最近就職した同級生がゴルフにハマっているのをみて心底バカにしていた口だった.あんなに長時間やるのもわけわからんと思ってた.インスタのストーリーに上がってるのを見てこいつも変わっちまったなと斜に構えていた.

笑った直後である.父の顔が初めて悲しい顔をしていた.初めて見た表情だった.

もしかしたら,子供とゴルフをするのが夢だったのかもしれない.笑われて悲しくなってしまったのかもしれない.

僕は「しまった」と思って「いくいく」と瞬息で返した.2秒もなかった.

こうして僕は全く興味がない打ちっぱなしにいくことになった.

行く途中はとても憂鬱だった.興味ないし.暑いし.興味ないし.暑いし.

しかし,父はいつもの4倍はしゃべった.父はクラブの握り方から腰の使い方,何もかもを教えてくれて結果的に楽しかった.

僕はおっさんロードへの道を歩んでいるのかもしれない.24歳,おっさん初心者である.

人の趣味をバカにしてはいけないな,あと案外やってみれば楽しいことが多いな.という大事なことを再認識した打ちっぱなしだった.

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