チャンピオン電池。 (超短編小説)
ある夏の日。
地獄のような炎天下の中クーラーのリモコンの電池が切れた。丁度その時、家には電池が一つも無かった。
この暑い中、わざわざ電池を買いに行くのはあまりにも億劫だったが、このまま放置していても部屋の温度は上がり続けるばかりなので、仕方なく電池を買いに行くことにした。
お店に入るとクーラーがガンガンにきいていた。クーラーの有り難みを全身で感じつつ、店内を散策する。電池がおいてあるコーナーを見つけたので足早に向かった。
そこには数多くの電池が置いてあったが、ふと「チャンピオン電池」という商品名の電池が目に入った。特にこだわりがなく何でもよかったので、興味本位でその電池を買ってみた。
いざ「チャンピオン電池」をクーラーのリモコンにセットして、スイッチオン。
「ぶぉぉぉーーーー」
勢いよく冷風が部屋中を駆け回り、サウナのように熱がこもりきった部屋をガンガンに冷やし、瞬く間にオアシスの地へと変貌させた。
涼しい。最高だ。
「チャンピオン電池、ふざけた名前だけど意外とやるやん」
そう思った。
だが、二日ほど経過したときおかしな事が起きた。リモコンのスイッチを押してもクーラーが作動しないのである。
「!?」
今日は午後から猛烈に暑くなるという予報を見て、お昼前頃からクーラーをつけようと思っていたのに、何度スイッチを押してもクーラーは微動だにしない。
何が起きたのかといえば、それは単純に電池切れだった。
だが、たった二日前に買ったばかりの電池である。しかも、使っていたのはクーラーのリモコンの電池だ。こんなに速く電池切れになるはずがない。
そういえば、今思い出したがやたらと値段が安かった。売り場にあった他のどの電池よりも安かった。一本五円ぐらいである。うまい棒の半分の値段。
「なにがチャンピオン電池だ、クソがっ」
そう言って、私は虚空に向かって電池を投げた。その電池は綺麗な弧を描き床に着地した。
・・・
その瞬間、私の頭の中で全てが繋がった。
電池切れの速度No.1、安さNo.1、名前のダサさNo.1。
そう、この電池はそういう意味合いでの“チャンピオン”だったのである。ただの詐欺商品、そんなものに私はまんまと引っかかってしまったのだ。
自分の不甲斐なさに打ちのめされ哀しみに明け暮れる中、ふと投げた電池の方に目をやった。すると、そいつはなぜか傷一つ無く床の上で縦に直立していた。
その威風堂々たる圧倒的な貫禄は、まさに“チャンピオン”という名にふさわしい“クソ”電池であった。
「ちくしょうっ」
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