蒼と翠①
第一章『ゆめうつつ』
懐かしい、夢を見た。「知る前の」夢。
日本にいた頃の夢だ。
俺は今、最高に機嫌が悪い。
暗くて狭苦しい留置所にいるからじゃねえ。
今部屋の隅で縮こまってる、軽犯罪やった奴らと同室だからでもねえ。
「悪霊」が憑いたからだ。というより、「悪霊」としか形容できねえものがついたからだ。
なんだよこれ。なんだってんだ。謎の力で物がひん曲がる。攻撃してきた奴らが見えねえ拳でのされて俺にビビる。欲しいとチラリとでも思ったもんが飛んでくる。もういっそ幻覚なのかと疑っちまう。
そこで俺は思ったんだ。
「コレ」、人間殴るよな。
俺の身内にはどうすんだろうな。
危険すぎるよな。
これ…俺、留置所の中は悪人まみれだからいいけど…外に出て、家族に何かあったら…
思わず汗が滴る。
「まずいよな…」
そこからはとんとん拍子。
夢の中らしい時の流れ方で、ジジイがやってきてアブドゥルがやってきて…俺は「力」を知り真実を知り「スタンド」を知り…学校に出発した。そこからだ。早送りが止まった。鼓動が早まる。夢だと知っていても、綺麗だと想った。
絵を描いている姿が、知的だとか、麗しいとか、恋しいからこその感情が溢れるのは、今の「恋を自覚した俺」だからだ。
当時のオレは何も感じていないだろう。それ以前に、俺はまだこの時は花京院がいるのに気づいてない。
あっ、絵に線を引いて…足を怪我した。懐かしい。
階段を転げ落ちて、煩い女子どもに騒がれて…訝しんで…
そして…現れる。
「花京院典明…!」
なぜだかこのタイミングでは言ってはいけない気がして、俺は当時の俺から一歩離れた位置で静かに呟いた。
第二章『出会い』
あの時は思わず口から言葉がこぼれそうになったな。
「き…てめえ!」
綺麗だって言おうとして、なんとなく言ってはダメな気がした。俺のただの直感だった。
俺にいい香りのハンカチを差し出し、怪しく笑って去っていく花京院。青空に向かって、校舎に向かって歩んでいった花京院の背が、とても綺麗だった。
そして、夢がまた早送りになり、俺は保健室の中にいた。
女教師の様子がおかしくなり、登場したのは…花京院典明。
引き摺り出したスタンドは、エメラルド色に煌めいていて、この世にはこんなにも美しいものがあるのかと目を疑うほどだった。
焦ってしまい、褒めようとしたのだが…
「まるで光ったメロンだぜ!」
なぜ暴言が出たのか、今でもわからない。
なんとなく、言わなければならない気がした。
そのあと、彼のしなやかで引き締まっているのにほっそりした体を殴るのはとても心苦しかったし嫌だったが、なぜだか俺は、「そうしないといけない」と強く思ったのだった。
今思えば違和感を持ち始めたのはこの頃だ。
俺は今、はっきり自覚している恋心だが、当時の俺は同性なんかあり得ないと思っていたから、好きな奴に悪戯したい原理でも働いたんだと思っていたが…今思えば、そんなわけがない。
何かがおかしい…まあ、それはいいか…大したことじゃない気がするし。今は大人しく夢を見ていよう。
続く
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