広重浮世絵の世界⑫ 三島
箱根山中の芦ノ湖湖畔にある箱根関所、箱根宿を通り箱根峠を超えると東海道は静岡県に入り下り坂となります。小田原宿からの東坂に比べ三島宿側への西坂は比較的なだらかで、下り終えると大場川を新町橋で渡り三島宿(絵では三嶋。静岡県三島市)に入ります。
この「狂歌入東海道」(佐野喜板)は、富士山を背景に三島宿の東見付(入口)の新町橋周辺の町並み風景となっており、これを雪深い光景に仕立てました。
静岡県の平野部は国内で最も降雪量の少ない地域のひとつですが、広重は「東海道五十三次」の複数の揃い物の作品において静岡県域の雪景色を一か所ずつ取り入れており、特に保永堂板の「蒲原・夜の雪」(静岡市)は広重の最高傑作のひとつとして有名です。本作でも屋根から木々に至るまで深々と降り積もった様子がうかがえます。
ところで、三島宿には伊豆国の一宮として街道を往く旅人の信仰を集めた三嶋大社があり、歌川広重が描いた「東海道五十三次」揃い物のうち保永堂板などの主要なシリーズでは三島宿の風景として宿場の町並みや旅人とともに三嶋大社の鳥居を描いています。
本来なら三嶋大社の門前町として、また箱根の山を控えた宿場町として賑わった三島宿の静かな風景です。
次回、次々回は富士山がもっと大きく配された絵柄を紹介します。