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広重浮世絵の世界⑯ 蒲原 ―間の宿・岩淵―

歌川広重「東海道五拾三次〈狂歌入東海道〉蒲原」(草津市蔵)

歌川広重が描いた「蒲原」(静岡県静岡市)といえば、最高傑作のひとつ「夜の雪」が思い浮かびます。「夜の雪」は保永堂板での絵柄ですが、「狂歌入東海道」は雪景ではなく、富士山を背景にした坂道の情景です。

これまで、三嶋、沼津、原、吉原、蒲原の5作に連続して富士山が登場しました。今後、西へと進むなか、どこまで富士山が描かれるのか予測してみてください。

さて、ここに描かれた坂道は、富士川西側の坂を少し登った岩淵(静岡県富士市)あたりと思われます。駕籠に乗った旅人が小さく描かれる一方、富士山を遮る樹木が大胆に描かれています。街道の向いにも土盛りと樹木がみられることから、岩淵の一里塚(静岡県指定史跡として現存)を描いたものでしょう。一里塚は街道筋に一里(約4キロ)ごとに築かれ距離の目安となりました。

岩淵には、吉原宿と蒲原宿の間の休憩場所「間(あい)の宿」が置かれました。東海道屈指の難所「富士川の渡し」の西岸ゆえに配置されたものと思われます。間の宿岩淵は当初、川岸近くにありましたが、洪水の影響を受け現在地に移転したとされ、大名や公家が休憩した「小休本陣」常盤家住宅(国登録文化財)が現存します。