第5話「嘘」
アキは都会に勤めるアラサー。
しかし今日は休日、よく晴れている。
家でリラックスして過ごしていたところ外で放送が流れていた。
「…振り込め詐欺が多発しています…」
前後がぼやけてよく聞こえないが、振り込め詐欺には気をつけよという内容だった。
こういう外のアナウンスが聞こえにくいのはいかがなものかと思うが、こればっかりは仕方ないのだろう。
それよりも「振り込め詐欺」はこんなに気をつけろと唱えているのにも関わらず、撲滅されないのも不思議なものだ。
嘘に嘘を重ねて金銭や個人情報を得る「振り込め詐欺」をはじめとするさまざまな詐欺。
嘘をつくことを人はやめられないのだろうか。
ボーッとついでに少し嘘について考えてみようか。
アキは目を伏せて物思いに耽った。
人は何故嘘をつくのだろうか。
事実を隠蔽するため、保身のため、他者の心を守るため、他者を騙すため…理由はさまざまだ。
だがその嘘どれもに共通するのは嘘をつくことで自分に何かしら利点があるということだろう。嘘というのは想像力も必要だがリアルさということ、相手を信じさせることが必要になってくる。
つまり、嘘をつくということがかなりの労力が必要だ。
また嘘をついた後のフォローも必要だ。
嘘をつくことは面倒くさいことだ、それなのにも関わらず何故人は嘘をつくのか。
これはどういう目的で嘘をついているのかによるだろう。
嘘を保身のために使ったのならば、自分の身が可愛いからなのだろう。
人間は突然の変化を本能的に嫌う人が多い、自分がしてしまった突然の失態を隠して早く日常を取り戻したいと突発で思ってしまう事で嘘をついてしまう。
ただこれがバレた時にその人への信頼を失ってしまうことになる。嘘をついたのが子供ならば、注意して今後しないようにすれば良いのだろうが、社会人になると話が違う。
嘘をつくことでより一層面倒なことになってしまう上に怒られもしない。
そして静かに信頼を失う。下手したら仕事もなくなってしまうだろう。
他者の心を守るためなのならば、それは愛によるものなのだろう。
他者が事実を目の当たりにして耐えられないだろうと判断し、そうならないように嘘をつく。
一見すると良い嘘のようにも聞こえるが、もしこれが見当違いだった場合嘘をついた人の信頼が失われてしまう可能性が高い。
他者を騙す嘘も単純明快に相手を傷つけ、相手の信頼をポロポロと失う。
しかし、そうまでしても手に入れたい甘い蜜があるのだろう。
信頼が一番の宝だとも気づかずに、社会からの信頼を失うのだ。
…まあ自分の知らない社会の信頼は上がるのかも知れないが、それは今は考えないことにする。
どの嘘にも共通するのは、相手からの信頼を失う可能性があるということだ。
別の機会でもまた考えたいが、信頼は自由への片道切符だ。
その切符を無くせば、自由にはなれない。
そしてその切符は無くせば手に入ることは容易くない。
それを無くしてまで守りたいものがあるのだろうか、相手からの信頼を失ってまで得たいものがあるのだろうか。
目の前にいない他者を騙したのならば、その後ろにいる数多の人の数を思い浮かべてほしい。この星には81億人いる。
また、一度嘘をつくと一生嘘をつき続けれなければならない。
その覚悟があるのならば嘘をつけばいいと思う。
想像以上に精神を浪費するだろう。
アキはだんだん話が大きくなってきて目を開けた。
外はもう暗くなってきた。
今日はたくさんやらなければならないことがあったのに何もできていない。
アキはいったん目を閉じて、現実から目を背けた。