ドラムはじめて物語その⑫〜気づき〜

~前回までのあらすじ~
「大手メジャーレーベル、ソ○ーミュージックからお声がかかったansony。
しかし結局それも流れてしまった。果たしてansonyに明るい未来はあるのか!?」

ansonyは本当に陽の目を見ないバンドだった。ライブはドン引き、オーディションには落ちまくる。

ドン引きされながらのライブにも慣れてきて次第にそれが当たり前になってきていた。

そんなある日、都内某ライブハウスでの出来事。

その日も相変わらず会場はガラガラ。
毎度おなじみの冷ややかな雰囲気の中、ライブスタート!

1曲目はみんな知ってる昭和の名曲のカバーをパンク風にアレンジしたものでさおりはなかなか気に入っていた。

しかしこのカバー、曲の出だしがちょいと難関。

私たちはベースをシーケンサーで流しているのでさおりがシーケンサーを操作。

通常はスタートボタンを押し、ドラムがカウントを出して演奏がスタート。

でも今回のカバー曲は、最初にギターからはじまりスタートボタンを押したと同時に途中からドラムとベースが入るという荒業。

出来ないことはないが、失敗する確率も高い。まぁ、何度もリハを重ねてきたので大丈夫だろう。

そんな中、悲劇は起こったのである。

何度も何度もリハを重ねた1曲目のスタート部分が合わせられず、まさかの曲中断。

(会場シーン)

すかさずひろゆき
「いや~俺たち二人、シーケンサーってのでやっててさぁ、たまにこういうのあるんです!」

(会場シーン)

気を取り直してもう1回。

すると・・・

こともあろうに、またまた合わせられずまさかの2回目中断。

(会場シーン)

そして3回めのシャレンジ。

って、なんの試練ですかこれ。

そして、信じられないことにその3回目もまたまた失敗・・・。

さすがに3回目は曲を止めるのもいたたまれなく、ズレズレにズレたままイントロをこなし、Aメロの途中ぐらいから無理やり合わせてそのまま強引に曲を続けた。

ああ、もう帰りたい泣泣泣

一体どこにライブの1曲目で3回コケるバンドがいるんだ!?

もう終わったな・・・・・・
それでもなんとか挽回しようと、二人とも必死だった。

ひろゆきはものすごく殺気立っていた。
もう半ばヤケクソで超必死に演奏した。

でも、そんなヤケクソのライブ・・・
あれっ、なんだか途中から楽しくなってきた。

なぜだ!?

それはあの日、もう失うものが何もなかったから。

1曲目で3回もコケたライブはもう何をやってもダメだろう。みんな引いてるし。
そう思ったら全てがどうでもよくなってきた。

今までのライブは少なからずとも、

「お客さんに良い反応をしてもらいたい」
「ハコ側にも誉められたい」
「新しいファンとかできないかな?」

そんな思いの中ライブをやっていたが、あの日はもうそんな事は考えもしなかった。

どうせ今日は何やっても無駄じゃん!
もう別にどうでもいいし!
開き直ったらなんか楽しくなっちゃった。

お客さんは最後までドンビキだったけど、
ライブの終盤は二人で好き放題暴れ、なんだかスッキリとライブを終えていた。

でも・・・
もうこのハコには出れないだろうな。

そこのハコは店長さんが結構厳しいと噂だった。

知り合いがいつもそのハコに出ていたが、ライブがよろしくない時、店長は目も見ずに清算して「お疲れさん」とボソッと言うだけだと聞いていた。

幸いにもansonyの担当はその店長ではなく、別のブキマネさんだったのでいつも優しくアドバイスをいただいていたんだが・・・

なんと!!!

その日に限っていつものブキマネがお休みで清算は店長がやるというじゃないか。

どこまでもついていないansony。
おそるおそる清算にいった。

こ、怖い・・・・・・

ひろゆき
「お疲れ様です。今日はありがとうございました」

店長・・・・・・

「いやーーー!!めちゃくちゃ良かったよ!!!!!!」

え。

なんですって?

怒られるかシカトされるかのどっちかを想像していたのでしばし呆気にとられる。

「今日はじめて君たちのライブを見たけどさ、いや~熱いね!良いよ!」

と、怖いと噂の店長がニコニコと誉めてくれるではないか。

「あのっ、でも1曲目、何回もやり直しちゃって・・・スミマセン・・・」

すると店長
「ああ、あれね?まぁそれがライブってもんでしょ」

とその部分は全く気にしてないご様子。
ホッ、良かった。

そしてその後もしばらく店長はその日のライブの感想を嬉しそうに語ってくれた。

失うものが何もないと思ったあの日、私たちは最強の武器を手に入れた。

「自分達がまず楽しむこと」

こんな大事なことにやっとやっと気付くことが出来たのだ。

「なぜお客さんは盛り上がらないんだ!?」

いつもそんなことばかり考えていたけど、今思えば当たり前。
自分達が楽しんでいないのに、お客さんが楽しめるわけがない。

こんな簡単な事に気付くまで何年もかかってしまった。

新たな発見をしたansony、この日を境に
「まずは何があっても自分達が楽しむ」ことを絶対忘れないと心に誓った。

あの失敗がなければきっと今でも大事なことに気づけずにいただろう。

やっと気付けた「まずは自分達が楽しむ」という武器が、今後のバンド人生にも大きく関わってくることになる。

バンドに限らず人生もそう。
まず自分達が楽しむこと。
全てはそこからだ。

さてさて、ansonyいよいよドンビキイブからの脱出か!?

つづく。

(次回予告)
次回、いよいよ・・・
最終回(たぶん)!!


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