ドラムはじめて物語その⑥〜バンド人生の始まり〜
(前回のあらすじ)
「バンド探しの真っ最中、これで最後だ!と決めたバンドに出会ったのに、またまた別のバンドからのお誘いの電話に出てしまったさおり。この電話がさおりの運命を大きく変えてしまう事になるとは・・・」
あの一本の電話に出てしまったさおり、将来自分の旦那になることも知らずに金髪のボーカルと運命の初対面を果たしたのでした。
彼の名はひろゆき。
さてさて、ファミレスでも行ってゆっくり話をしよう。
江口洋○風のベース君と金髪ボーカルが乗る車の後について自分の車を走らせました。しばらく走ると赤信号で停止。
すると助手席の江口洋○が降りてきて
ゴンゴン!とさおりの車の窓ガラスを叩いた。
窓を開けると「これ、俺らのデモテープ!着くまでに聞いてみて!」
と言ってまた自分の車に戻った。
あの頃はカセットテープの時代。
ドキドキしながら再生!!
キ・・・・・・
キターーーーーー!!!!!!!!!
あの時の衝撃は一生忘れることはないだろう。Aメロを聴いただけで全身に鳥肌が立ってしまった。
これです、これです。
ずっとずっと探していたのはコレですよ!
高速8ビートを中心としたリズムにキャッチーなメロディー、ストレートな歌声。
すべてがドンピシャで自分の好みだった。
ファミレスに着いて車を降りるなり、
「すげーいいよ!最高だよ!!」と二人に伝える。
もう気持ちは固まった。
ずっと探していたものにやっと出会えた!
絶対このバンドに入らなくちゃ!!!!
……と、数日後に別のバンドとスタジオに入る約束をしてたことなどすっかり忘れ舞い上がる。
ファミレスではいろんな話をした。
ヤバイなんかこの人達、すんげぇ楽しい。なんかノリがめちゃくちゃ合う。
ちなみにスタジオに貼ったさおりのメン募には
「ジュンスカ、ラモーンズ、グリーンディが好き」と書いたのだが
そのことが金髪ひろゆきのツボだったらしくトークはかなり盛り上がった。
グリーンディに関しては名曲「バスケットケース」の魅力を熱く語ったさおり。
自分の根っこになっている音楽の趣味が合うってのはかなり重要だよね。
しかし……
金髪ひろゆきは大きな勘違いをしていた。
さおりは「グリーンディが好き」と言っただけで、決して「グリーンディの曲が叩ける」と言ったわけではない。
その頃のさおりはやっとドラム歴は二年ぐらいになっていたが、相変わらず基礎練もせずやみくもに叩いていただけなのでそれはそれはひどいドラムだった。
グリーンディの名曲「バスケットケース」は大好きだったけど実際はあんな速い曲、叩いたこともない。
そんなわけで
「バスケットケースが叩ける」と勘違いされてしまったさおりは彼らの大きな期待を背負って、翌週また会う約束をした。
いざ翌週。
ベースの江口洋○の自宅は、改造して軽いスタジオ使用になっているらしいので遊びに行くことに。
そこにはドラムセットが置いてあった。
でもさすがに生音は出せないのでゴムパットで消音されていた。
「なんか叩いて見みてよ」と金髪くん。
キタ・・・・・・品定めの時間。
そしてさおり、得意のフレーズを叩いてみるが……
ゴムパットのせいか、なんだかうまく叩けない。本物のドラムセットならもっと上手く叩けるのに。と、自分の下手くそさを棚に上げゴムパットのせいにする。
「ちょっとまって、もう一回!」
すると二人はもう一度叩こうとするさおりに「わかったわかった、もういいから!」
と演奏阻止。
ゴムパットという事を差し引いたとしても、さおりのドラムはどう考えてもグリーンデイにはほど遠いただの初心者だった。
「そんなんじゃ使いものにならないから、来週からスタジオで特訓だ!!!」
と、翌週から週イチのリハに参加する運びとなったのでした。
ところで彼らのバンドにはとっても上手なサポートドラマーさんがいらっしゃいました。
彼らはそのドラマーさんをとても気に入っていたらしくサポートでもいいからずっと続けてもらうつもりだったそう。
ではなぜさおりのメン募を見て連絡してきたのか?
それは電話の前日のスタジオリハでサポートドラマーさんがリハを忘れてすっぽかしたのがきっかけ。
そして「やっぱサポートじゃなくちゃんとしたメンバーが欲しいよな」
ということでさおりに連絡をしてきたわけです。
もしあの日、サポートドラマーさんがリハをすっぽかさなかったら・・・
彼らはさおりに連絡をしてくることもなかったし、さおりは数日後に約束していたバンドとスタジオに入り、そこのメンバーになっていたことでしょう。
人生はタイミング。
ちょっとしたきっかけであっちの道に行く可能性も、こっちの道に行く可能性もある。
ちなみにそのバンド名は「悪影響」
(ぷっ、なにそれ)
わたし、横文字のカッコいいバンド名とかが良かったんだけどな〜。
とにもかくにも下手くそドラマーさおり、
下手くそなくせにまたしてもバンドに潜り込むことに成功したわけです。
しかも今度はやっと見つけた、心から気に入ったバンド。やっとこれでひとつのバンドに打ち込める。
期待に胸を膨らませるさおりだったが、この日を境に決してラクではないバンドマン人生を本格的に歩みはじめることになるのだった。
つ・づ・く。