もう初夏の香りが
我が家のすぐ近くに畑がある。ときどき猫が集会を開いたり、取っ組み合いのけんかをしている。
私がこの地に来てから、沢山の畑が消えて、瀟洒な住宅が建ち並んだ。
でもこの畑はけなげに残っている。
今はネギ坊主が元気に空を目指して並んでいる。
初夏の香りが漂ってくる!
人間世界の不安と大騒ぎをよそに、大地は命をはぐくみ、大地の気を吸った野菜や植木が青空のもとに育っている。
欧州では、このところの経済自粛で大気汚染が激減したとか。温暖化が止まったとか。コロナ禍にも、少しはいいこともあるんだ……。
コロナが終息した後の世界は今とはまったく違っているだろう。
価値観も働き方も。
歴史学者網野善彦氏の言葉が今も脳に貼りついている。
「歴史は進歩すると思ってはいけない。退歩していることもある。現代が江戸時代より進んでいるなんて、傲慢な見方だ」
細部は違うかも知れないが、そんな言葉だったと思う。
「コロナ後の世界、変わるだろうね。ここまで生きたのだから、せめて、それを見るまでは生きていようよ」
「三年後が今よりずっと良い世界であってほしいね」
「ほんとうに良い方向に変わってほしいね」
友人と電話でそんな会話を交わした。
コロナ後の世界が、退歩ではなく、希望に満ちた進歩であって欲しい。
そして、この畑には何があっても、このまま残って欲しい。ネギ坊主たちにまた会いたいから。