小説・投資詐欺の行方:消えた400万円(1)破産通知
なぜわたしは四百万円を一挙失ったのか
危険信号は幾度も出ていたのに、
なぜ見逃して、出資し続けたのか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『プレミアバンクは平成三十年四月十九日、破産宣告の決定がなされました。経緯及び会社の財務状況・今後の手続きの説明会を下記の要項で実施致します。 破産手続き申立て代理人 弁護士前田博』
一通の封書が届いた。
まさか、という思いとやっぱりと言う思いが頭中を駆け巡る。
破産……つまり私の出資したお金は消えてしまったということか。
四月二十一日。地下鉄有楽町線麹町駅を出た。この駅で降りるのは初めてだ。土曜日だからだろう。車も人の姿も少ない。
麹町法律事務所の封筒を手に辺りを見回した。上品で落ち着いた街並み。少し先は永田町。裁判所や国会議事堂がある。
こんなことがなければ、この駅に下りることは一生なかったはず。
濃い茶色のビル、ここかな。通知書の住所を確認する。
「あの」
後ろで小さな声。振り返ると、わたしと同じぐらいの年に見えるやせた女が立っていた。白っぽいスプリングコート、手にグレーの封筒を持っている。麹町法律事務所の封筒だ。
「プレミアバンクの破産の件で?」
わたしが言うと女は大きく頷いた。白髪交じりの短い髪が少し揺れる。連れが出来たようでホッとした。
「わたしも破産通知受け取って説明会に来ました」
わたしが言うと、女は、
「わたしにとっては大金だった。あなた、いくら投資した?」
いきなり直球か!
「わたしにとっても大金でした」
女はわたしににじりよる。
「わたし、六百万円。あなたは?」
いきなり、直球か!、
「同じ……ぐらい」
女はつぶやいた。
「倒産通知書なんて初めて見た」
「わたしも」
トートバッグからペットボトルを取り出し、口に当てる。朝、自分で淹れたお茶。ペットボトル一本でも節約したい。
「せめて半分でも返って来ないかしら」
わたしのつぶやきに女の声がかぶさった。
「せめて半分でも」
わたしたちは顔を見合わせ、泣きそうな互いの顔から目をそむけた。