牡丹の花を見た
診療所に行く途中、瀟洒な住宅街で牡丹の花を見た。葉の形から多分、芍薬ではなく牡丹だと思う。
去年まで駅近くの医院に長らく通っていたが、癌手術という想定外の『事件』の過程で、この診療所に変えたのだ。
駅前と違い、バスの便が悪い。車を運転してゆくのもおっくうだ。いろいろ考えたが、この診療所の一番近くのバス停で降りて、歩くことにした。
一回目はかなり歩いた。二回目、バス停を一つ変えた。この方が近いと思ったのだ。
そして出会った牡丹の花。
明るい午前の日差しのなか、華麗な姿を道路に向けていた。
大輪の花は人間をものともしない毅然とした強さに満ちている。
思えば、植物は人間より先に地球に生れ出た生命体だ。人間よりは長い生存の歴史を持ち、今日に至っている。進化しそこなって絶滅した植物も沢山いるだろう。
牡丹のそもそもの先祖がどんな植物だったかは知らないが、今、目の前にいる牡丹の歴史を思うと、気が遠くなるようだ。
この花に出会えたのも、降圧剤をもらう医院を変えたから。次の通院日は一か月後。
多分、もう散っているだろう。
巡り合う花一輪でさえ、一期一会なのかも知れない。