見出し画像

陽気な看護師さん

「ちょっとお腹見せてもらいまーす」

楽しそうに私のお腹を見る看護師さん。私の仕事はお腹を見せること。見た人が「順調ですねえ。膿もないし、綺麗に乾いています」と満足げな声を出すと、私は自分が「いい仕事をした」ような気がする。

中でも陽気な看護師のUさん。

私の質問をうるさがらず実に楽しそうに応えてくれる。

「おへその下を5センチぐらい切った所から内視鏡を入れるんです」

「じゃ、4カ所の孔は何のために開けたの?」

「この孔にハサミみたいな機械を入れて、お腹の皮をグーンと上に持ち上げて、そこにガスを入れてお腹を風船みたいに膨らませるんです」

「そんなに膨らむの?」

「人間の体って不思議ですねえ。いくらでも膨らむんです。そうしてドクターの視界を良くして、おへその下から入れた内視鏡で目当ての場所にたどりついて」

「大腸に孔を開けないと、どこが癌か分からないでしょう?」

「事前の検査と大腸表面の様子で、ここにに癌があるぞーって分かるのです。で、バサッとその箇所を切り取って、おへその下の切れ目から外に出す」

「大腸からも出血するんでしょう。その血はどうなるの」

「うーん。ドクターじゃないから詳しくは分からないけど、電気器具で血を乾かすか吸い取りながら切るから、体内に血が残ることはないんですよ」

「で、切った腸はドクターの手縫いで繋ぐの?」

「今では、器械がバシャッと一瞬で縫ってしまいます。一ミリの漏れもないように。すごい器械ですよ」

「じゃ、ドクターが手で縫うわけではないのね」

「手で縫うのは表面のおへその下の切り口と4カ所の孔。メスを入れるのも縫うのも手作業です」

「なぜ、そこは機械で切ったり、縫ったりしないの?」

「機械だと傷が大きくなるから、メスで少しずつ少しずつ切り口を入れて行くのよ。縫うのも、出来るだけ傷が残らないように」

なるほど……。

「忙しい所、あれこれ聞いてごめんなさい」

「いえ、いえ。いろいろ聞かれた方が嬉しいです。勉強になるし、なんか、わたしも役に立ってるぞって気がして」

「血を見る仕事、イヤだなあとか、辞めたくなったことありません?」

「うーん。辞めたいと思ったことはありませんねえ」

「私には真似もできない」

「きっと、私に向いてるんです。どんな仕事でも向き不向きってあるでしょう。私、向いてるんですよ」

Uさんのポケベルが鳴った。「じゃっ、また来ますね」

彼女は吹っ飛んで行った。直ぐに帰ってきて、お通じの様子とか聞いているとまたベルが。

「私、人気者で、もう、目が回りそう。家には二人子供がいて、そっちの世話も目が回りそう。また来ますね」

Uさんは陽気に言って、パソコンを乗っけた台車を押してあたふたと出ていった。

あなたに出会えてよかった~

今、コロナの感染予防のため、小中学校が休校になった。医療現場を支えているのは8割は女性だったように思える。

私が雑談した看護師さんは皆、子供がいた。彼女たちはどうしているのだろう。近くに預けられる祖父母のいる人ばかりではない。

彼女たちが子供の世話のために職場を離脱したら、ただでも人手不足の現場はどうなるのだろう。


いいなと思ったら応援しよう!