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小説・投資詐欺の行方:消えた400万円(3)笑うしかない

なぜわたしは四百万円を一挙失ったのか
     危険信号は幾度も出ていたのに、
なぜ見逃して、出資し続けたのか。
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こんな豪華な弁当を配って大丈夫か。まともな会社だろうか。あのとき、かすかな不安がよぎった。

止めたほうがいい。待てよ。今解約すれば元金の七十パーセントしか返って来ない。もったいない。それに、解約すればユミさんの成績に響くかも知れないし。

弁当より、誕生日のお花のプレゼントより、わたしの心を引っ張って
いたのは小林ユミだった。

パソコンがフリーズして呆然としていたとき、訪れたユミ。あれこれ操作して戻してくれたっけ。助かった。嬉しかった。お礼したいと思った。
それに加えて、お金を少しでも増やしたいとい欲もあった。

バカなわたし……。

「いくら出したの?」
前の女がふり向いた。わたしはできるだけ平静を装って、
「四百万円」
 女はカカカと笑った。
「わたし、千六百万」

聞いただけで頭が真っ白になった。千、千……。

女は大きな胸をブルブル震わせてかすれた声で笑った。
「もう笑うしかないわ。誰にも言えないし。ガハハ」
「あの……ご主人は?」
 悪いこと聞いたかな。
「一人なの。老後の資金、働いて貯めた。それがゼーンブ、パー。ガハハ」

斜め前の二人の女が同時にふり向いた。若いほうが赤い眼鏡の奥の目をパチクリさせて、
「うちは母がやらかしたの。母、ショックで寝込んでる。だから、あたしが来たの」

白いカーディガンの女が、
「わたし、主人を誘ったの。利子がすごく良いからって。主人も寝込んじゃって」

いつのまにかロビーの席はいっぱいになっていた。二十人ぐらいか。女たちに混じって黒っぽい男が三人、無言でうつむいている。
「あ、社長だ」
「真山さんだ」
「え?ほんとに来たの?ウソ」

皆いっせいに同じ方向を向いた。
背の高い色黒の若者が神妙な顔で横を通る。社長さん、どうしてこんなことに、と追いすがる声に真山は、説明会でお話しします、と頭を軽く下げた。
女たちは恨めしそうに真山を目で追う。真山は電信柱のような姿勢で音もなく廊下の角を曲がって消えた。 

誠実そうな話し方。年二回の椿山荘での会食には妻と二人の子供を連れてきた。出席者たちに自らたてた日本茶をいれてくれた。。

盲導犬協会に寄付し、神奈川サッカーチームのスポンサーになったり、社員一同で収穫した米を慈善団体に寄付したり。

「人の幸せのために働きなさい、という母の教えで会社を立ち上げました」

少しはにかみながら語る口調に胸打たれた多くの『小金持ち女』が札束を差し出したのだ。

「もう笑うしかないね」
 後ろで投げやりな声、辺りにどんよりした笑い声が起こった。お人よしの小金持ちの女たちの声は冷たい床に吸い込まれていった。

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