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小説・薔薇とワルツ(十二)雪の薔薇(13/15)
十二月十二日、午後一時。わたしとマリは踊っていた。
何もかも夢のようだ。
「クラス会の会場が火事になるなんて夢にも思わなかったわ」
「六条さんは助かった。亡くなった方もいるのに」
「あなたのおかげよ」
「六条さんは強運なんですよ」
「嬉しいわ。もしそうなら」
「六条さん、皆が見惚れていますよ」
「あなたに見惚れているのよ」
「六条さんに、ですよ。お姫さまみたいに綺麗!」
「ワルツを踊れるようになったのはマリさんのおかげよ」
「成し遂げたのは六条さんの努力です」
大会は大幅に時間を短縮し、終わった。
マリといっしょに会場を出る。
夜空から白い花びらのような雪が舞い落ちてくる。
薔薇(そうび)だ。古来、市井の片隅にひそやかに咲いていた野生の花、強靭な花、薔薇(そうび)だ。
雪の中に佇む影、あれはいつもの運転手!。
「姫さまー、お迎えにあがりました」
海の底のように暗い声。またあの男が来た。
「逃げましょう!」
マリはわたしの手を掴んだ。
その手の強さ、わたしは息が止まりそうになって意識を失った。
わたしはどこにいるのだろう。
辺りに食器やスプーンをぶつけ合うような音が響く。嗤い声がわたしを包む。
死神たちのパーティーだ。死神たちは匙やスプーンを手に涎を流しながらわたしを待っている。
餌食になどなるものか。私は千年後に命をつなぐ。
わたしは渾身の力で起き上がった。
白い薔薇の散るなかを走った。いつの間にかマリが一緒に走っていた。わたしたちは向こうに見えるほのかな光に向かって走った。
(続く)
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