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背を向けたままの新に、アーサーは困り果てていた。人として暮らしてまだ三年余り、女心どころかちょっとした感情の機微すら彼にはまだ難しい。 「新」 「なに」 腕枕をしたい、と言ったらへそを曲げてしまった。その華奢な背中がアーサーには愛しく、そして。 「……寂しいです」 彼女の横顔がちらとのぞく。 「腕枕は囲われてるみたいでイヤなの」 「新は愛人ではありません」 「そうなんだけど」 そこで思いついた。 「なら、お互いにしませんか。構造上は可能なはずです」 「メカじゃないんだから」
「あるじ、ここは私が」 「こんな時ばかり臣下ヅラするんじゃない」 城はすでに焼け落ちた。否、この人こそが城である。 影としてともに育った。覚悟を固めた私に、彼はなおも言い募る。 「生き延びるならお前も一緒だ」 「まだ言うか」 拳で鳩尾を突くと、あるじは綺麗にくずおれた。その服を剥ぎ取り、己のものと入れ替えて、くたりと重たい身体を他の者にあずける。 「行ってくる」 「……ご無事で」 かれらが充分に離れたころを見計らい、石積みの上に立ち上がった。 「もはや逃げも隠れもせぬ
リョウは優柔不断で、でも有言実行なことで有名だ。数多の娘を泣かせてきたが、約束はかならず守る。誠意があるのかないのか、しかしそういう男だった。 「私たちが溺れてたら、どっちを助ける?」 「うーん、選べないから、両方助ける」 「むりでしょ、みんな死んじゃうよ」 「死ぬのは嫌だな。でもきっと助けるよ」 あれ、めずらしいこともあるんだな、くらいに思っていた。そんな日々も遠くなり、我が子の手を引いて河川敷を歩いていたある日。 「お母さん、あれ」 騒ぎのほうを見やると、屈強な男が幼い子
石の塔のあるじはガラクタ集めの変わり者。翼はあれど岩屋に籠り、集めた品を愛でるばかりと人はいう。 鳥の人は夜目がきかない。予期せぬ黄昏に盲いたかれらは、塔のすみかへ殺到した。翼が絡まり押し合いへし合い、そこへほとりと灯ったあかりが、星のごとく皆を導いた。 「せいぜい、恩を着せてやればよいのに」 アカネは兄に不満を漏らす。ため息が出るほど美しかったクロガネの烏羽は、ぼそぼそと逆立ち見る影もなかった。自らを省みず、〈ガラクタ〉で塔のくらしを支えてきた兄。彼がもう飛べないことは、ア