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第二回あたらよ文学賞 落選作品 「海の色、君の瞳」

落選したので供養いたします🙏
狂愛を描こうとしたら、かなりエグいものになってしまったので有料です。
無料で不特定多数の方に晒す勇気がないので高額にしてあります🙇‍♀️
苦情もご遠慮ください。
返金不可ですのでご注意ください。



「海の色、君の瞳」



「海という名前はどうだろうか」
「この子の名前?」
「そうさ。君は海を見たがっていただろう」
「そうね。きっととても青いのでしょうね」

 妻であるミコトは、ベッドの上で大きくなった腹部を愛おしそうに撫でた。
 周期はすでに三十五を越え臨月に入ったと言う。
 男の僕から見れば、今にも生まれそうな大きさだ。

 二十五年ほど前、地球での暮らしが厳しくなり別の惑星への移住を余儀なくされた。それが、この惑星サードだった。地球は、人が住める状態ではなくなってしまったのだ。
 僕は当時まだ小さかったからうろ覚えだが、水や空気がダメになったのだと言う。
 信じられないことに、数名の人間は地球に残ると言ってきかなかった。

 今、惑星サードから天体望遠鏡で地球を見れば、かつての美しい青と緑の惑星は見る影もなくなっている。代わりに、くすんだ茶色と黄色が広がり、灰色の霞が地球全体を覆っている。薄い青い海がかすかに見えるが、それも薄くぼやけている。時折見える薄い緑と黒い斑点が、在りし日の森林と今の荒れ果てた大地を物語っていた。
 そんな場所で残った彼らは今、どうしているのだろうか。
 ただの大学研究員の僕には、それを知る術はないのだ。

「本を読んでほしいわ」

 ミコトが、ベッド脇のサイドテーブルから本を手に取って、僕に差し出した。
 その瞳は、ほんの少しだけ僕の方から逸れている。
 
「本なら、オーディオブックがあるだろう?」
「あなたの声で聴きたいの」

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