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よみびとしらず #01 初春 番外編 夏宮

「いでよ『木霊(こだま)』」
 秋の夜長に夏宮は、一人縁側に腰かけ何とはなしに召喚を試みていた。
 木霊とはふわふわと浮く白い影である。害は無く、何か尋ねると尋ね返してくるという。
 木霊の白は秋の夜によく映えた。
 時刻は草木も眠る丑三つ時である。
 
 室内には良子(よしこ)がおり、高価なあかりを灯して何やら書を読んでいる。
「もう寝たら」
「もうちょっとだけ」
 何度繰り返されたやりとりだろうか、良子は一向に文机から顔を上げないのであった。
 良子の出自は夏宮も知らない。
 一度も聞いた事がなかった。
 ただ、どこか良い出の貴族が子女を宮中に差し出したのだろう。
 良子は入内(じゅだい)をしていた。
「まだ読んでるの」
「そう。今回の『まとめ』は面白いのよ」
「へぇ。じゃあ読み終わったら私にも読ませて」
「いいよ」
 『まとめ』とは、宮中の噂話をとりまとめた、数枚に及ぶ冊子であった。
 月の初めに新冊が出るのだが、これが宮中内の数少ない楽しみの一つでもあった。
 『まとめ』には連載も載っていた。
 今時のものだと紫式部の『源氏物語』や清少納言の『枕草子』が人気を博していた。
 そんななかで良子はちょうど『定子様の今日のお召し物』という欄を読んでいた。
「ねえまだ?」
「もうちょっと」

 その時であった。
 いきなり閃光が走ったかと思うと、頭上に轟音がとどろいたのである。
 にわかに女房の悲鳴や近習の怒号が聞こえだした。
 縁側に出ていた夏宮が声のする方を見て見ると、なるほど屋敷の屋根が燃えていた。
 雷が落ちたのである。
 しかし雨は降っていない。
「なになに」
 室内にいた良子が飛び出てきた。
「雷だってさ。屋根が燃えてる」
「またあ?」
 最近の宮中には落雷が多い。
 先日などは火災により女御一名が亡くなっており、一部始終が噂となっていた。
 当然『まとめ』にもまとめられた事件であった。


 今回の雷は雨を伴わなかったことから、数日後には物の怪の仕業ではないかという噂がたった。
 物の怪といえば夏宮であった。
「そういうわけで夏宮殿、そなたに任務を与えましょう」
 良子が生えていない髭をねじりながら声を大にして言った。
「えっ」
「今回の雷が物の怪の仕業かどうか、調べて欲しいの」
「なんで私が」
「夏宮殿、これは正式な依頼です。よろしくお願い致します」
 夏宮は逡巡している。
「来月の『まとめ』先に読んでいいからさ」
「そういうことなら」
 夏宮は、物に釣られるたちであった。

 正式に引き受けたからにはと、夏宮はまず陰陽寮へ向かった。
 新しい任務が入った際には、兄弟子である保憲(やすのり)様か晴明様に報告をしなければならない決まりであった。
「どなたか、いらっしゃいますか」
 陰陽寮の入り口で夏宮が問う。
「ああ、夏宮か。どうした」
 室内にいた晴明が応えた。
 夏宮は事情を説明した。
「それはいい勉強になるぞ。励めよ」
 晴明はそういうと書庫への入館を許可してくれた。
 夏宮は早速書庫へ参り、雷に関する書を読み漁った。
 しかしすぐに古狸殿に聞けばよいという結論に至り書庫を後にした。
 古狸殿は右京の端に位置する妙蓮寺という寺の住職であり、物の怪であった。会うのは久方ぶりである。

 そんな夏宮を呼び止める声があった。
 良子である。
 なんでも今回の事を自分で『まとめ』てみたいので同行させろと言う。
 ほかでもない依頼主たっての願いなので聞かないわけにはいかないが、物の怪にも会う事を伝えると目を輝かせていたので若干不安に思いつつ、夏宮は承諾したのであった。
 
 夏宮は妙蓮寺への行きしな、竹丸の屋敷に寄った。
 竹丸の妹君で、初春の嫁でもある宮子(みやこ)に文の手ほどきをする約束があったのだった。
 これにも良子はついてきた。
 文の手ほどきは宮子と良子が生徒で、夏宮が二人に教えるという体をとった。
 宮子と良子は初対面ながらすぐに意気投合したらしく、『まとめ』なる面白き冊子をぺらぺらとめくる宮子からは「私も入内した方がよかったかしら」という初春に聞かせられない発言まで飛び出すほどであった。
 手ほどきを終えると、宮子に別れを言い、二人は一路妙蓮寺へと向かった。

 久々に訪れた右京は相変わらず死臭の漂う閑散とした地域で、その中に建つ妙蓮寺も相変わらず死臭を垂れ流しており寂れていた。
 良子は右京に入った瞬間から吐き気を催しており、その介抱をしながらの到着であった。
 牛車を降り四脚門をくぐると、先に形代で遣いを出しておったので古狸の住職が出迎えてくれた。
「お久しぶりじゃ夏宮殿」
「和尚もお元気そうで何より。こちらは例の良子殿です」
 簡単な挨拶を済ませ三名は講堂内へと移動した。
 住職の出してくれた菓子を頬張りながら夏宮が尋ねた。
「最近宮中で落雷が多いのですが、物の怪の仕業だという噂がたちまして。お心当たりはございませぬか」
「はて……身近にそのような動きを見せる物の怪はおりませぬがのう」
「頼明が召喚術を使用して……という事は考えられませぬか」
 頼明とは都の転覆を図らんとした輩の名である。
「それはなかろう。そういった事があればすぐにわかるはずじゃ。何しろ今は頼明への監視がきつくなっておるでのう」
「なるほど。では他の線を当たりましょうか」
「誰ぞが単独で呪を使用したという線は消えませぬがな」
「分かりました。どうも住職、忙しいところをありがとうございます」
 夏宮は礼を言い、良子と共に妙蓮寺を後にした。
 帰り道、良子は再び吐き気を催していた。

 宮中の良子の部屋へ戻った二人は、まず湯あみを済ませた。
 死臭を纏って宮中を練り歩くわけにはいかなかったからである。
 それから爽やかな香をたき、死臭を退けた。
 そうこうしているうちに良子の食欲も戻ってきたので二人で夕飯を食べた。
「今日の収穫はあの住職の言葉だよね」
 良子が言う。
「そうね、誰かが単独で呪を使ったか、もしくはそれ以外の線で」
 夏宮が続ける。
「何も進展していない気がするから明日また陰陽寮の書庫へ行ってくるね」
「はあい同行は……できないか」
「流石に無理でございます」
「それは残念」
 二人してにやっと笑った。


 言葉どおり、翌日の夏宮は朝から陰陽寮の書庫に籠(こも)っていた。
 雷に関する呪を一通り頭に入れておきたかったが、いかんせん数が多すぎて話にならなかった。
 それでも簡単な呪を下から五つほど覚えて良子への土産とした。
 良子は良子で今日は午前中から歌会があり忙しくしていた。
 二人が会えたのは昼時になってからであった。
 ちょうどよかったので昼御飯を一緒に食べた。
「どう?進展はあった?」
「それが数が多すぎて。五つほど仕入れてきたけれどものには出来ていないのよ」
「そっか。それじゃあ他に何が出来るかしら」
「とりあえずこの五つを身に着けてみるね。術者しか分からないことも多いから。あとこの機会にものにしておきたいし」
「了解。その台詞もらった。いい具合にまとめるからね」
 言って良子は夏宮の頼もしい台詞を傍の巻物に記述した。

 次の日から夏宮は猛特訓を始めた。
 本物の雷を扱うので、陰陽寮で特別に用意した訓練場の使用が許可された。
 基本を身に着けるのが得意な夏宮であったが、応用には弱みを見せた。
 そこは兄弟子である保憲様が色々と助言する形で習得していった。
 十日が経つ頃、夏宮は五つすべての術を身に着ける事に成功していた。
 夏宮が習得した術は、順に『雷粒』、『雷針』、『雷刀』、『纏雷てんらい』、『雷鳴』といった。
 ちなみに最上位には『雷神』、『轟雷』などという術が名を連ねている。
 こうして夏宮の中に『雷』に対しての感覚が芽生えた。今後似たような術を習得する際のこつが身に着いたのである。
 
 夏宮としても少々力が入っていたこともあり、嬉しさから依頼主である良子に早速報告に向かった。
「良子、言ってた五つ、身に着いたよ」
「さすが夏宮、頼りになります」
 良子が深々と礼をする。
「身に着いたはいいけれど、今のところ何の役にも立たないんだよねえ」
 それには二人して頭をかかえた。
「何か手がかりがあればいいんだけど。もし呪を使う人がいるなら宮中、つまり良子のそばにいると思うんだけど。心当たり無い?」
「そうだねえ、今朝の歌会にはほとんどが出席していたっけ。出席していないのは尚侍(ないしのかみ)の織部(おりべ)様くらいだったかしら」
「織部様。たずねてみることは出来そう?」
「そうねえ、高官だから尻込みしてしまうわ。でもあらかじめ声をかけておけば大丈夫だと思うよ」
 二人は早速織部様に文を書いた。
 織部様の返事は明日の午後なら空いているということであったので、二人はそのように都合をつけた。

 翌日、二人は正装に着替えて織部様に会いに行った。
 宮中の奥深くに進んでいくにつれ、すれ違う女官の品位が高くなってゆく。
 ある程度進んだところで指定していただいた部屋に入ると、かぐわしい香りに包まれて織部様が座して待っておられた。
「はじめまして、お待たせいたし申し訳ございません。更衣(こうい)の良子と、陰陽師見習いの夏宮でございます」
「はじめまして、こんな奥まった場所へようこそおこし下さいました、尚侍の織部でございます」
 二人は早速、最近近辺で不可思議な事が起こっていないかたずねてみた。
「不可思議なこと……と申しましても。そうですね、最近寝つきが悪うございますね。それくらいでしょうか」
「寝つきが悪い、もしやそれが……」
 夏宮がつぶやく。
「少々身辺を調べさせていただいてもよろしうございますか」
「ええどうぞ」
 了承いただいたので、夏宮は術の準備に入った。
 そうして、
「『全点透視』」
 と唱えた。
 『全点透視』とは物の怪の痕跡を調べる術である。
「ふむ、特に物の怪が入り込んだ形跡はございませぬが、呪をかけられておる可能性もございますので念のため、『解除』」
 『解除』とはかけられた呪を解く術である。
「もし呪にかかっておられても、これで一旦解かれもうした。よろしければ今夜一晩寝ずの番をしたく思いますがいかがでしょうか」
「それは構わぬが、そちらはよいのかえ」
「はい、慣れておりますゆえ」
「それでは失礼いたします」
 そう言って二人は早々に部屋を後にしたのであった。

 良子の部屋に戻った二人は軽装に着替えて一息ついていた。
「いやあさすが尚侍ともなると肩がこりそうなお召し物で」
「部屋のしつらえもすごかったねえ」
「焚きしめた香も絶対にいいものだよねえ」
「すごかったあ」
 手元の菓子を食べながら興奮冷めやらぬ二人である。
「じゃあ今夜は寝ずの番で」
「そうだね、つきあう?」
「もちろん」
 二人は今夜のために少し仮眠をとることにした。

 日が暮れ、夜がやってきた。
 二人は食事を済ませ織部様の部屋に向かった。
「失礼します。参りました、良子と夏宮でございます」
「ああ、お待ちしておりましたよ。今夜はどうぞよろしくお願いいたしまする」
「こちらこそよろしくお願いします」
 挨拶を済ませ、二人は配置についた。
「『人結界』」
 夏宮が織部様に呪をかけた。
 『人結界』とは、人に纏(まと)わせた結界である。異変があれば分かるようになっている。
 長い夜の始まりであった。

 しばらくは何の音沙汰もなく時が流れていった――。
 しかし日付が変わったころであろうか、にわかに『人結界』が波打ち始めたのである。
 何かが織部様を捕らえようとしている。
 夏宮に緊張が走った。
「『邪見』」
 『邪見』とは物の怪を見る術である。
 夏宮の動きに良子も反応を示した。月明りの下で目を細めながら必死に何かを書いている。
 夏宮は目を凝らした。
 すると宙をふわりふわりと漂う糸のようなものが目に入った。
 更に注視してみると、それは煙であった。
 その煙が織部様を捕らえようとしているのであった。
 夏宮が元を辿ってゆくと、一つの香炉に行きついた。
 書斎の棚の二段目に置いてある漆塗りの香炉から、人には見えない煙がのびているのであった。
 夏宮は香炉を開けてみた。
 するとそこには灰の上に木片が置かれていた。
 火のついていない木片から、怪しげな煙が出ているのであった。
 それは紛れもない、何者かによる呪であった。
 夏宮はその木片をつまみあげ、懐から取り出した懐紙に巻いて再び懐に入れた。
 そうして夏宮は織部様が安らかにお眠りになっているのを確認し、念のため呪を施したまま部屋を後にしたのである。
 良子も夏宮の後に続いた。

 良子の部屋に戻った二人は再び軽装に着替え一服とばかりに菓子を頬張った。
 夏宮の行動の一部始終を目におさめていた良子が夏宮に問う。
「その木片が何か悪さをしていたの?」
「そうみたい。煙をだしていてね、その煙が織部様を襲っていたのよ」
「煙が?」
「そう、煙が」
「火もついていないのにね」
「だから誰かからの呪だと思う」
「織部様を敵対視する何者かの仕業ということか」
「明日ご本人にたずねてみようと思う」
「そうだね。勿論同行するからね」
 それまで二人はしばし眠ることにした。

 朝はすぐにやってきた。
 二人は良子の部屋で顔を洗い着替えと食事を済ませ、早速織部様のお部屋へ向かった。
 到着すると織部様はお食事中であられた。
「お食事中失礼いたします。良子と夏宮でございます」
「本当に失礼なのよあなたたち食事中なんだから」
 開口一番、二人は怒られてしまった。
「昨夜の件をいち早くお伝えしたく馳せ参じました。もうしわけございませぬ」
「昨夜の件とは。何かあったのかえ」
「はい。悪さをしておったのはこの木片でございました」
 夏宮が懐から懐紙を取り出し広げる。
「失礼ですがこの木片、どなたかからの贈り物ではございませぬか」
「確かに、それは女御の衣笠(きぬがさ)からの贈り物じゃ。では衣笠が妾を……」
「その疑いがございます。それで今夜は衣笠様を見張りたいのでございますがよろしいでしょうか」
「それはかまわぬ。妾が許そう」
「この件はぜひご内密に……」
「あい分かった」
 そんな訳で今夜は女御の衣笠を見張ることとなった。
 昨日と同じく仮眠をとり、夕方に目覚めた二人である。
「さあて、鬼が出るか蛇が出るか」
「夏宮、頑張ってね」
 と言いつつ良子も決して怠けているわけではなかった。
 夏宮の一挙手一投足を書き記さんとする熱意であった。

 織部殿に教えてもらった衣笠様の部屋は、ちょうど織部様の部屋と対になる形で拵(こしら)えてあった。
 四方を几帳で仕切ってあり、何かあれば隣で眠る他の女御などに筒抜けになる仕様であった。
 そのため夏宮と良子の二人は、庭から床下に潜り込むことにした。
 二人とも忍びに行くため軽装も軽装、見る者が見れば痴女と思われてもおかしくない身なりであった。
 夜も更け皆が寝静まった頃、床板の上でわずかに音がしだした。
 もう少し待ってみると、確かに衣笠様が何やら動いておられる様子であった。
 耳をそばだててみると小声で何やら言っている。
 夏宮は床板に耳をつけて一心に聞き入った。
 すると何やら分からぬ呪文のようなものを唱えていることが分かった。
 すかさず夏宮が反応する。
「『聞耳(ききみみ)』」
 『聞耳』とは、聞きなれない言葉を翻訳する術である。
 聞いてみたところ、それは紛れもなく落雷の呪であった。
 宮中に雷を落として喜ぶのは間者くらいのものである。
 衣笠様はおそらく間者――。
 しかしそれをどう明らかにするか。
 逡巡している間に、宮中に落雷が起こった。
 迷ってはいられない。一か八か。
 夏宮は床下を這い出て衣笠様の寝所の前の廊下に仁王立ちに立って言い放った。
「衣笠様の悪事、見抜いたり。夜な夜なの落雷、織部様の香、すべて衣笠様の仕業でございましょう」
 衣笠はそれを聞いて飛び起きた。
「お主、何を言っておる」
 声を聞いて周囲の人がざわめき始めた。
「今夜の一部始終、失礼ながら床下より聞かせてもらいもうした。観念なされよ」
 そこへどこからともなく近習等が現れた。
 それを見て夏宮ははっとし帯に手をやった。
 やはり――。
 晴明様と保憲様により『遠耳』が仕込まれてあったのだった。
 『遠耳』とは遠くの会話を聞く術である。
 しかしこれで夏宮がわざわざ追及する手間がなくなったと言える。
「夏宮殿、後は我らにお任せくだされ。その姿では何かと……」
 庭に入ってきた近習の一人に声をかけられ、夏宮と良子は自分たちがほとんど下着一枚である事を思い出した。
「はひっ」
 おかしな返事をして二人は一目散に良子の部屋へ引っ込んでいったのだった。

 それから数日経った。
 あれ以来宮中に落雷はおこっていない。
 また織部様の睡眠も快調らしかった。
 捕らえられた衣笠は、自分は南都の出であること、帝近くに侍る高官を一人一人殺めていくのが任務であったこと、落雷もその一旦であったこと、と大人しく罪をはいた。
「頼明が手を引いていたのでしょうか」
「そこまで口は割らんだろう」
 夏宮に問われ晴明が応える。
「そういえば夏宮、おぬし『まとめ』にてたいそう大立ち回りを繰り広げておるような」
「あれは友人の良子が勝手に……」
 そう、夏宮は良子の手によって『まとめ』の表紙に堂々とまとめられていたのである。それが好評でいつもの冊数では足りなかったとの噂であった。
「これだけの実力があればもうよかろう」
 保憲様がそのうちの一冊をひらひらと回しながら言う。
「?」
「おぬし、晴れて陰陽師に昇級じゃ。見習いは昨日までよ」
 一瞬の間があった。
 その後一気に夏宮の顔がほころんだ。
「本当でございますか」
「ああ、本当だ。それも『まとめ』てもらうがいい」
 皆の顔に笑みがこぼれた。

 徹夜続きで『まとめ』に載せる記事を作成していた良子は、一日中眠っていた。
 良子の部屋を夏宮が尋ねた時も、寝ぼけまなこで招き入れてくれたがそのまま再び寝入ってしまった。
 良子の部屋に転がっている菓子をつまみ、一人縁側で夏宮は唱える。
「いでよ『木霊』」
 新月の夜に、木霊はいっそう輝いて、夏宮の心を慰めるのであった。


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艸香 日月(くさか はる)
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