みじかい小説#181『ライオン』
モニターの中で、百獣の王ライオンが、獲物を追いかけ疾走している。
狩りをしているのはメスで、オスのライオンは一匹で、離れた場所からそれを見ている。
オスとメスで役割が違うらしい。
理由は分からない。
ただそういうふうに解説は言っている。
ライオンの世界では、それが普通らしい。
ライオンにはライオンのルールがあるのだ。
モニターの中で、ライオンと獲物との距離は、だんだんと縮まっていく。
あともう1m。
がぶり――と、ライオンが獲物の喉笛に喰らいつく。
獲物の首元から血が噴き出し、ライオンの口は真っ赤に染まる。
激しく動いていた獲物の動きも、徐々に頼りなげになってゆく。
獲物の動きが完全に静止したのを見計らって、メスライオンたちはオスライオンを振り返り、食事の合図をする。
それを受けたオスライオンは、のそのそと近づき、動かなくなった獲物に一番に口をつける。
メスライオンに呼ばれて、離れて見ていた子供たちも、わらわらと寄って来る。
最後には群れが一緒になって獲物を喰らう。
ユーチューブで配信されている海外のドキュメンタリー番組を見ながら、涼太はごくりとつばを飲み込んだ。
涼太は今年、15歳になる。
涼太の両親は共働きで、涼太は毎日、ユーチューブを見て過ごす。
ユーチューブでは、毎日、色々な番組が放送されている。
素人が作った「やってみた」シリーズ、プロが教える10分講座、そして、涼太の大好きなドキュメンタリー番組。
涼太が動物に興味を持ち出したのは、ちょうど5歳のころだった。
涼太の父が、涼太のためにと、小さな犬を飼い始めたのがきっかけだった。
人間とは違う、別の生き物が身近に現れたことに、涼太は興奮した。
名前を、ペロと名づけた。
涼太はペロを、毎日、散歩に連れて行った。
一緒にお風呂も入った。
休みの日には、近くの公園で一日中あそんだ。
しかし。
ある日、ペロは突然の病気で死んでしまった。
涼太にとっては、それは衝撃的な事件だった。
それ以来、涼太の家では動物は飼っていない。
涼太は今日もユーチューブで動物を見る。
のびのびと大草原をかけているライオンを見る。
スピードにのってハンティングするライオンを見る。
がつがつと獲物に喰らいついているライオンを見る。
ペロも生きていたら、あんなふうになっていたのかな。
もしまだペロが生きていたら、どんな犬になっていたろう。
涼太は動画を見ながら、そんなことを考えるのだった。
大きくなったら自分のお給料で、大きな犬を飼おう。
そうして、思う存分一緒に生きてやろう。
涼太は動画を見ながら、そんなことを考えるのだった。