みじかい小説#167『風邪』
風邪をひいた。
はじめは、なんだか寒気がするな、程度だった。
それが、次第に節々が痛くなり、頭がぐわんぐわんするようになった。
これはいかん、と、コンビニでウィダー・イン・ゼリー的なものを買い込み、帰宅してすぐに横になった。
熱をはかると38.0度だった。
普段、熱など出していないときは自覚のない体の快調も、一旦風邪をひけば喉から手が出るほど欲するものとなる。
いつもなんとはなしに動いている手足が、急にありがたくなる。
そんなこんなで二日間を何もせずに過ごした。
二日の間、床についていると、果たして自分は元に戻れるのだろうかと不安になる。
けれど不思議と、二日間を「無駄にした」とは思わない。
きっと今の健康に無自覚な自分には必要な時だったのだと、思う。
まだ痛みの残る関節に無理を強いて布団から起き上がると、とりあえず歯磨きをし顔を洗った。
それからパーカーなど肌に密着しない楽な服装に着替え、ウォーキング用のリュックを背負い外に出た。
室内の淀んだ空気のなか二日間動かずに過ごしたせいで、ドアを開けた途端に肌に触れる風が思いのほか新鮮でびっくりする。
それから私はいつもの1.5㎞コースを歩き始める。
坂道をあがって土手に出ると、そこには見渡す限りの青空が広がる。
視界のつきあたりには緑の山々が横になっており、遠くへ重なるほど表面の模様が均一になり、青みがかっていく。
そんな山々に吸い込まれるように目をとられていると、5月の風が、土手に生えた雑草を波のように揺らして過ぎ去ってゆくのに気づく。
歩いていると腰が痛くなってきた。
二日ぶりの体重に、腰の骨が耐えられないのだ。
なんとやわな。
自分の非力さに笑いがおこる。
帰りにスーパーにより、やはりまだ少し必要だろうということで、再びウィダー・イン・ゼリー的なものを買い込む。
帰宅し、そのうちのひとつを早速口に入れると、勢いベッドに横になる。
あー疲れた。
二日ぶりの太陽の光で、体は十分に干されたようだ。
いくぶんか熱の戻った体を大の字に広げ、私は深い眠りについた。