みじかい小説 #153『茶屋娘』
さらさらと茶色の髪がなびく。
前を歩くのは、真理が通っている理美容学校の生徒だ。
女子学生が4,5人。
その前にはカップルとおぼしき、こちらもおそらくの理美容学生が2人。
「バイバーイ」
けだるく片手をあげて、顔は半分相手の方を向いて、言う。
「バーイ」
言われた方も、けだるげに半身だけ振り返り去ってゆく。
おそらくこの春の新入生であろう、真理はそうあたりをつける。
先頭をゆくカップルは彼女たちより学年が上かもしれない。
なぜならまだ春は始まって間もない。
そんな短時間で同級生とカップルになるとは思われないためだ。
みな、理美容学校の生徒らしく、髪の毛は染めており、そろってさらさらである。
お互いにモデルになっているのだろうことは想像にかたくない。
身なりもハイウエストなイマドキのスタイルで決めていて、みな競うように洒落ている。
四月のあたたかな空気の中を、そんな男女が連れだって歩いてゆく。
江戸の昔もこうであったのかと、真理は少し想像力をたくましくする。
江戸時代には、茶屋の娘たちが、ファッションリーダーであった。
看板娘たちは、茶屋の客の口により噂され、噂が噂を呼び茶屋には連日黒山の人だかりができるというわけだった。
彼女たちは浮世絵にもなっている。
いつの時代でも、おしゃれは楽しい。
いや、「おしゃれをする」のが楽しいのではないかもしれない。
「自分の好きなものに囲まれている」のがいいのだ。
彼女たちの場合は、それが自身の身体にまで及ぶのだ。
真理はそう思い、自宅の漫画のコレクションを思い出す。
私も理美容学校生のはしくれだ。
また、髪の毛を染めてもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、真理は真っ黒に伸びた自分の髪の毛先をいじるのだった。
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