みじかい小説155『つけもの』
田舎から荷物が届いた。
中身は分かっている。
年老いた叔母のつけた、漬物だ。
叔母は叔父と二人暮らしで、父の実家を守っている。
私は若干辟易しながら箱を開ける。
だって臭いんだもの。
田舎の叔母の家にはカメムシがおり、ごきぶりがいる。
だだっ広い日本家屋で、土間があって、土っぽくて、家の目の前に畑があって、なんちゃって農家で。
いつだったか、箱の中に髪の毛が一本入っていたことがある。おそらく叔母の髪の毛だ。きたない。
およそ綺麗とはいいがたい田舎のうちから送られてきた、段ボールひと箱である。
中を開けるとやっぱり。
野菜のつけものに、魚のつけもの、手作りのこんにゃくに、手作りのよもぎ餅。
どれも叔母の手作りだ。
全部とりだしてみて、それぞれが入ったビニール袋を持ち上げてもんだりして、もういちど箱に戻す。
臭くてさわりたくない。
それでも荷物の礼をしなければと、なかば義務感にかられ、田舎の叔母の家に電話する。
伝える言葉は紋切型の「荷物届いたよ、ありがとう」だ。
すると叔母と叔父はたいそう喜ぶ。
こちらが調子に乗って「ありがとう、おいしく食べるからね」と伝えると、いっそう喜ぶ。
それから互いの健康を祈り、「またいつでも帰っておいでね」と言われ会話は終わる。
声を聞くと現金なもので、電話をしてよかったなと、ちょっと思う。
それから台所に立つ。
段ボール箱からとりだされた、つけものや手作りのあれやこれやを前に、叔母の言葉を思い出す。
「お金じゃ買えないものだからねえ」という言葉を。
そう、田舎だって、いつまでもあるわけじゃない。
みなが歳を取る。
いつか田舎の家を守る叔母も叔父も亡くなって、田舎自体もなくなってしまうのだ。
今あるかけがえのない「私の田舎」から送られてきた荷物なわけだ。
そう思うと、ちょっと切ない。
私は大台所に立つ。
つんとにおう臭いに負けるものかと、送られてきた荷物の仕分けをする。