CHUNITHM EPISODE ピリオまとめ
アーケードゲーム「CHUNITHM」に登場したキャラクター「ピリオ」にまつわるEPISODEをまとめたものです。
資料用。
EPISODE1 ピリオ:
遠い未来。機械文明が進んだ世界。そこには片脚を失った一人の少年が居た。
遠い未来。機械文明が進んだ世界。
ヒトは機械に依存するあまり、機械、特にその中の“キジン”と呼ばれる機械生物によって
管理・支配されるようになっていた。
キジン達は街の中央にそびえ立つ巨大な塔を住処とし、廃棄物を地上に撒き散らしていた。
やがて人々に蓄積された反抗心と共に『フラワー・テロリズム』と称する抗争が勃発する。ピリオはレジスタンス部隊の一員として、キジンと交戦を繰り返していた。
彼はかつて片脚を失い彷徨っていた所を拾われ、義足を与えられて旧市街で育てられた。
キジンに拉致された肉親の事を想い、レジスタンスに志願したのだった。
EPISODE2 ヒトとキジンの物語:
“平和の鐘”は物悲しく街中に鳴り響く。「始まるのか、ヒトとキジンの抗争が―」
EPISODE3 ハーモナイゼ:
キジンはヒトの永遠の課題である『存在の命題』を解決していた。
キジンはヒトが行うほぼすべての動作を、ヒトよりも高い能力水準で遂行する事が出来る。さらに0と1で判断するため、ヒトの永遠の課題である『存在の命題』を解決している。
ヒトは機械の命題である『存在の命題』を満たすために奴隷の様に扱われる。人間が生活する上での最低限度の生活は、マザー・コンピュータ“エーテル”の意思により計算、管理されていた。
キジンの塔は天上部にある巨大円形型の“ラウンドテーブル”と呼ばれる天板を支えていて、高いところに住むキジンほど崇高であると云われている。
ラウンドテーブルの各所には礼拝堂に良く似た施設が存在する。施設では七日毎に“ハーモナイゼ”と呼ばれる儀式が執り行われ、そこに集まるキジン達によって聖歌が紡がれる。
塔の中央部に安置されている鐘が、「平和の鐘」。
種の共存を願った“エーテル”の意思によって、キジンがヒトに建設させたものであった。
EPISODE4 フラワー・テロリズム:
最終目的は、マザー・コンピュータ“エーテル”の破壊。
“平和の鐘”建設後、ヒトはラウンドテーブルへ干渉する事を禁止され、かつてキジンが生活していた旧市街への移動を余儀なくされた。
旧市街に暮らすヒトは、ガラクタ山に廃棄された部品や自生した食生物を収拾、採取しながら生活しなければならなかった。生活の多くを機械に依存していたため、四肢や臓器の一部に機械を組み込む者も多く、ガラクタ山の部品を拾っては自らの身体を改造して暮らしていた。
やがて彼らに蓄積された反抗心は、レジスタンスという形で結実した。
“平和の鐘”の破壊を皮切りに『フラワー・テロリズム』と称する人類の抗争が始まったのだ。
最終目的は、マザー・コンピュータ“エーテル”の破壊。
エーテルはヒトを支配する世界をつくり出したブレーンでもあり、精巧なキジンを生み出すために選定した人間の躯を改造(サンプリング)していると云われている。
キジン達は聖歌を謳って言語統制を試みているのだろうか。あるいは、ヒトの愚行を嘲笑しているのだろうか。
その答えを知る者は、今となっては誰も居ない。
EPISODE5 ラウンドテーブル侵攻作戦:
「吹っ飛ばしてやる、その生身の鋼ごと!」
第一次ラウンドテーブル侵攻作戦。
ラウンドテーブルに通ずる回廊では、紺青色で構成された回廊の壁面にびっしりと埋め込まれた電子回路が、軍服を纏った兵士達とキジン達の白い装甲を鮮明に浮き上がらせていた。
黒髪の青年は、目の前に立ちはだかった“戦闘型”と呼ばれる数体のキジンを鋭く睨みつけた。キジン達が掲げた両手が、勢いよく光った。と同時に、両手の指の代わりに装着された銃口から、無数の銃弾が放たれた。軍服を着た黒髪の青年は咄嗟に手前の柱の陰に転がり込み、銃弾を躱す。柱は放たれた銃弾を受け大きな亀裂を走らせた。
剥き出しとなった壁面のチューブが、バチリバチリと不協和音を奏でる。「くそッ」青年はおよそ軍人とは似合わない白く細い手で持っていた銃を構えた。
「戦闘型イクスゴートに銃は効かんようだ、ピリオ。お前は先に行って小隊と合流、隊長の援護を」
「…了解」
ピリオと呼ばれた青年は、後方から放たれた言葉に、視線も合わせず頷いた。
銃を仕舞い防護服の裏に仕込んだこぶし大程の榴弾を取り出すと、ゼンマイ状の留め金を外し、キジン達のいる数十メートル先の空間に向かって放り投げた。
「吹っ飛ばしてやる、その生身の鋼ごと!」
強烈な爆発音と共に、爆風が巻き上がる。砕けたキジンの破片がばらばらと降り注いだ。
一時的な電波障害を誘発し、戦闘型キジン特有の赤い一つ目があてもなく宙を彷徨う。その隙を突いて、ピリオはキジン達の間を縫うように走り抜けていった。
EPISODE6 キジンとの邂逅:
ピリオは近づくと、おもむろに引き鉄に指をかけた。「コロンの、仇―」
「ここは…?」
ラウンドテーブルでピリオが目にしたのは、礼拝堂に良く似た建造物だった。
(どうやら小隊とはぐれたようだ)
礼拝堂の扉や外壁は破壊され、そこかしこに紺青の瓦礫の山が形成されていた。
(壊れてしまえば、地上の景色とさほど変わらないな―)
その時。
ピリオは微かな気配を察し身を硬直させた。
ヒトの気配では無い。
「…?」
どうやら瓦礫の山を陰にして、一体のキジンが立っているようだった。
(奴は僕の存在に気付いていない、破壊するなら今―)
そう判断したピリオは即座に銃を抜き、気配を感じさせないようまわり込んだ。
心臓が千切れて仕舞うのでは無いかと云うくらい、激しく啼り出すのを感じる。
「落ち着け、落ち着け…今だッ」
ピリオは勢い良く飛び出すと、そのまま標的に向かって引き鉄を引いた。
放たれた弾丸は真っ直ぐキジンの首もとに命中した。
激しい火花が散り、キジンのちぎれた頭部が潰れた甲虫の様な音を発しながら転がった。
安堵もつかの間、その頭部を見るなりピリオは、小さく呻いた。
「に、人間の首…!?」
転がった塊は、幼い少年の頭部そのものだった。
ピリオは咄嗟に種別の確認を行う。
首の接合部に、キジン特有のナノソケットが確かに装着されていた。
「……なんという事だ…」
あまりにも“ヒト”を象っているそのキジンの頭部を見て、ピリオは唖然とした。
よく見ると、修道着のような衣装を見に纏っていた。
『…チルダ?』
背後から幼い子供の声がした。
振り返ると、壊れたステンドグラスの前に、同じく修道服を見に纏ったもう一体のキジンの姿が在った。武器を持たず、ただ転がった首を見つめている。
戦闘体勢では無かった。
ピリオは静かに近づく。
その姿は図らずもあの日を想起させた。
まだ幼かくも、大切なー
「―コロンの、仇」
ピリオはそう言い放ち、ざらりとした引き鉄に指をかけた。
EPISODE7 メンテナンス・デイ:
「キジン達を壊して、救われる事などあるのだろうか」「奴らはキカイの皮を被った、化け物よ」
「たまには休ませてくれよ。こんな日は義足の節々が軋んでしょうがない」
「昨日、メンテナンスしたばかりでしょう」
「カラダもココロも、規格外のものだらけさ」
「瓦礫の山に埋もれて夜を明かすのはもう嫌よ」
マリィは肩よりも幾分長い髪を器用に片手で束ねながら、もう一方の手で空中ディスプレイを操作していた。
「思うんだ」
「何を」
「こうして、キジン達を壊して、救われる事なんてあるのだろうか、って」
・・・
「奴らはキカイの皮を被った、化け物よ」
「…そう、思ってた。思ってた筈…だけど」
「だけど、何?」
「…哀しい表情をしていたんだ、
まるで人間が葛藤している様な、いやそれよりも深く、どこか救いを求める様な…」
頭を抱えるピリオに向かってマリィは振り返り、あきれたようにピリオを見た。
「葛藤しているのは、どっちなの。レジスタンスに休息は無いんでしょう、ハイ、そこにあるボックス全部、E5倉庫に持ってって」
「…結局手伝わされる羽目になるのか…」
「救いたいヒトが居るんでしょう、今はその事だけ考えて。
貴方が悩む必要なんて、もう無いんだから」
ピリオは考えていた。
第一次ラウンドテーブル進攻作戦。
礼拝堂に居た二体のキジン達は、何をしていたのだろうか?
壊れたステンドグラスには、天使と少年が描かれていた。
いつか聞かされた、おとぎ話にとても良く似ていた。
EPISODE8 “o”(オー)のプロトコル:
ピリオは自身の義足を見つめていた。失った肢の代わりに造られた、冷たい鋼の人工機関。
地下に設置された薄暗い射撃場で、ピリオは歪な形状の銃の引き鉄を引いた。
銃口から眩い光が炸裂し、キジンを模して造られた標的の中心に大きな穴を開けた。
「これは…」
「試作型対機人銃。超硬金属のコアを磁力制御しながら高速回転、射出し目標を貫くわ」
固いコンクリートの床をカツカツと鳴らしながら、マリィが近づいてきた。
「貫くもの…ブリューナクか」
神話の槍の名を持つ兵器の仰々しい銃身を指でなぞりながら、ピリオは明日のラウンドテーブル侵攻作戦について思考を廻らせていた。
「明日の作戦、貴方にはコレを持って闘って頂きます」
「どうして僕が?」
「相性がいいのよ、この武器は君が昔捕らえられていた時の“枷”と同じ“o”(オー)のプロトコル・制御システムで構築されてる。磁力制御は身体に負荷がかかるけれど、ある程度耐性のある貴方の身体なら」
「枷か…」
ピリオは鈍く光る自身の脚を見つめた。キジン達に捕らえられた時に失った脚の代わりに造られた、冷たい鋼の人工機関だった。
・・・・・・・・・
その“義足”が、すぐ隣に立っている女性によって造られたという事実を、彼はまだ知らない。
EPISODE9 追憶とエゴイズム:
「存在の命題が何だって云うのさ、私は生きてる。生きてるんだぞ、バカヤロウ…」
「未だに慣れんぞ、朝から嗅ぐ弾薬の匂いは」
「ガラクタ山のグランジポットのが幾分マシに思えるな」
ピリオ達小隊は基地と呼ぶにはおよそ適さないような廃屋で、次の侵攻に向けて弾薬の束をまとめていた。
「その、コロンさん?君の恋人」
「…妹だよ」
ピリオの思考は、かつて少年時代に訪れた花畑に引きずり込まれた。
一面の青空、花畑、首飾り。
そこには、長い髪を風になびかせた、やさしく微笑む少女の姿―
『奇遇ね』
突然の声に、ピリオははっと現実に引き戻された。マリィは華奢な腕で弾薬を込めながら、淡々とした口調で続けた。
「私も、妹と弟が居たの、双子のね。キジンに連れ去られてしまった」
「…初めて聞いた!」
「初めて話したもの」
「…それで、君もレジスタンスに…?」
マリィはピリオの顔を見つめた。
「馬鹿みたいよね、生きているかどうかすら解らないのに、それでもこの場所に立って足掻いている」
ピリオは先日の苦言についてたしなめるかのように、細長い弾薬の先でマリィを小突くそぶりを見せた。
「君も迷っているのか、結局僕となんら変わらないじゃないか」
「…そうよ。でも、それが人間なんじゃない?
存在の命題が何だって云うのさ、私は生きてる。生きてるんだぞ、バカヤロウ…」
彼女の澄んだ瞳は、静かに憂いを帯びていた。ピリオは思わず顔を背ける。
ラウンドテーブルから排出される廃棄物の雨はその日も、地上を潤すこと無くガラクタの山々を錆色に染めていた。
EPISODE10 再び、礼拝堂にて:
ブリューナクは眩い光を放ちステンドグラスを抉った。「機械め、ニンゲンに何をした!!」
ピリオは以前のラウンドテーブルでの出来事がどうしても気がかりで、ひとり戦線から離脱し再び礼拝堂を訪れていた。礼拝堂は修復が行われ、瓦礫の山は綺麗に取り除かれていた。
ピリオは、入り口の丁寧に再構築された、いかめしくも無愛想な大扉を開ける。
開いていく扉と共に、教会の奥に設置された天使と少年を象った大きなステンドグラスと、その下の教壇の元で祈りの歌を捧げる一体のキジンの姿が視界に入ってきた。
キジンは少女の姿をしていた。
ピリオは機銃・ブリューナクを素早く引き抜いた。
「機械め!」
轟音と共に、眩い光が炸裂する。
・・・・・
ブリューナクは眩い光を放ちステンドグラスに描かれた天使の羽根を抉り抜いた。
驚いたキジンの少女が振り向く。
「機械め、ニンゲンに何をした!!」
「…アノ、あの、わたし」
キジンの少女は言葉を選びながら、ぎこちなく話しかけてくる。
ピリオは迫り寄ると、少女の頭に向けて真っ直ぐ銃を構えた。
心臓が激しく波打つ。
「こっ、此処で何をしていた…!」
「―うたを、あつめていたの」
以前礼拝堂で破壊したキジン達の姿が脳裏によぎる。
「…」
その声、仕草、まるで人間じゃないか―彼は思った。
「…出来ない」
ピリオはゆっくりと引き鉄から指を離した。
そのままキジンの少女に、武器を持たない方の手を差し出した。
「…“感情”を、持っているんだろ」
「かん、じょう?」
キジンの少女も見様見真似で片手を差し出した。
EPISODE11 閃鋼のブリューナク:
「“羽根を忘れた天使の物語”か」「―この抗争に、意味など在るのでしょうか」
―その時。
強烈な閃光と共に、ブリューナクから発せられた弾丸はキジンの胸を貫いた。
「引き鉄(トリガー)が勝手に!?」
胸からヒトの血にも似た、赤い液体が流れ出した。
何が起こったのか理解せぬまま、キジンの少女はピリオの足下に倒れ込んだ。
「…」
ピリオは立ちつくす。何も考えられなかった。
少女のような身体が動きを止めるのを、ただ見ているしかなかった。
「…嘘だろ…」
『ブリューナクは生ける銃。造り手の意志に従属しキジンを破壊、殲滅する。
君が“生きる”事を願った、“彼女”なりの慮りだったのだろう』
重みのある低い声が礼拝堂に響き渡る。
驚いたピリオが振り返ると、頬に渇いた傷痕をもつ白髭の逞しい男が立っていた。
「隊長…!」
隊長と呼ばれた男はピリオを一瞥すると、穴が開いたステンドグラスを眺めた。
「“羽根を忘れた天使の物語”か」
「どうして此処に…」
「エーテル・システムに関する新しい情報を掴んだ、作戦を立て直すぞ」
斃れたキジンには目もくれず、隊長は踵を返す。
何故か一瞬、片手で空中ディスプレイを操作するマリィの姿と重なった。
思わずピリオは疑問を投げかけた。
「―この抗争に、意味など在るのでしょうか」
ステンドグラスを構成していた無機化合物の欠片が、ぱらぱらと優しく舞い落ちた。
隊長は、一瞬その歩みを止めた…かのように見えた。
彼がピリオを振り返る事はなかった。
「言っただろ、私語は慎めと」
ピリオは足元に転がる機械の残骸を静かに見つめていた。
・・・・・・
キジンの掌には、小さな高周波ナイフが仕込まれていた。