歌は時空を超えてII 調声メモ後編

前編の続きです。

ホールニューワールド

元々英語バージョンをカバーしていたこともあり、好きな曲でもあるので、曲リストを見て速攻で立候補しました。この曲はバージョンがいくつもあり、また日本語歌詞はアニメ、劇団四季、実写映画などなど全部違うのですが、予想通りというかなんというか、それにまつわるトラブルは起きました(笑)

この曲はフリモメンとセイカさんのデュエットです。当日まで隠されていて、「誰がこの曲歌うの?」と話題になっていて、私もフェイク情報をせっせと流していましたが、その裏で粛々と準備されていました。
あまり技巧を凝らす曲でもないので、テンションカーブを描く程度で特別な工夫はありません。マスティさんと逆で、私は基本的に感情表現はテンションが第一選択になります。というのはスタイルが実装される前からそれに慣れているからですが、ライブラリによってはスタイルの効きが悪く(京町セイカもそう)、表現が限られるからです。
テンションの描き方は、基本的に高い音を高く、低い音を低く、強調したい音を高く、また強調したいロングトーンはクレシェンド気味、そうでないロングトーンはデクレシェンドにすることです。これをざくざく描いていくだけでクオリティが爆上がりします。
注意点は、マイナス方向はよく効くことが多く(セイカさん、モカちゃんもそう)、-0.01で相当変化するので注意深く描くことです。自分で声を出してみるとわかりますが、高い音はテンションを下げると歌えないので、テンションをマイナスに振るのは基本的に低い音になります。高い音はプラスの中で振ったり、他のパラメータで調声する方が自然です。

セイカさんはピッチが全部書かれていますが、これは他のキャラでピッチを作成してそれを固定してセイカさんに切り替えて作っています。こうすると、普段のセイカさんと雰囲気を変えることができます。

まあこの曲は、どんな調声をしようと奴の茶番劇が全てを持っていってしまうのですが(笑)

キミガタメ

精華町のみなさーん!フリモメンですよー!
…すみません言ってみたかっただけです。「うたわれるもの」のPS2、アニメで使われた曲になります。ストーリーはネタバレなので省きますが、みた人には心に残る曲なのではないかと思います。
これは精華町からのリクエストなのですが、私が好きなのでこれも速攻で立候補しました。

この曲はとにかく原曲に寄せています。Synthesizer Vの機能でオーディオ入力を解析するというのがあるのですが、この曲はほぼ全編ハモっているので役に立たず、一部を参考にするにとどめています。
特に重要なのは「〜深き望むなら」とかの16分音符の部分で、ここがジャストだと雰囲気が出ません。先ほどの解析も参考に、ほとんどの音をグリッドの外に置いています。
テンションなどは同様にカーブを書いていますが、息を抜く感じが欲しいところは有声無声のパラメータを無声側に寄せています。これは伴奏が派手だとよくわからなくなるので一部に留めていますが、シンプルな弾き語りなどでは全編に渡ってこのカーブを描いていきます。
最後の声を張り上げてFまで持っていくところは1番の見せ場ですが、ここはセイカさんのビブラートでは不満があったので、ここだけついなちゃんのピッチを持ってきています。母音の前に補助的な子音(この場合w)を持ってくるテクニックはマスティさんが解説されている通りです。また、感情を込めたロングトーンには、テンションを一旦下げてまた上げるのが有効なことがありますので、最後はそれも使っています。

夢やぶれて

https://www.nicovideo.jp/watch/sm44143596

この曲も再演ですが、なんと宮舞モカちゃんのステージデビューを飾るという大役を担うことになりました。もちろん自分は曲を決める時点でモカちゃんの歌声を知らないので、これはたぶんAHSさんからのリクエストだと思います。
昨年英語にしたのは私の趣味ですが、それがモカちゃんの帰国子女設定で生きるとは思いませんでした。というかその設定も知らなかったので、「モカちゃん残念な子なのに、英語歌唱とか大丈夫ですか?」と確認しました。
無事ステージデビューを飾り、発売されて大人気となっているのはご存知の通りです。我々は「歌声凄い!立ち絵かわいい!でも誰にも言えない!「という葛藤からようやく解き放たれました(笑)

この曲はAHSさんからの要望で、ミュージカルでなくコンサートにふさわしく力強く歌わせて欲しい、ということだったので、そのように調声しています。なので、ミュージカル(特に映画)を覚えているとイメージが違うかもしれません。
調声方法はここまで説明してきたことそのままです。途中のshameを伸ばすところが一番盛り上がるので、そこをちゃんと盛り上げられるよう周囲はテンションを下げ気味にしたりします。

外国語曲を打ち込むポイントとして、子音で終わる後に注意すると良いです。これをべったり繋げてしまうと、いくらカーブ等を描いても抑揚のない英語になりやすいです。子音がリズムのどこに乗るのかを意識して、必要なら音を切ってやるとより自然になります。また、これはキャラによって違いますので、キャラを切り替えたら再調整が必要です。
また、これはミュージカル曲、それもブロードウェイを意識していますので、リズムをかなり崩して歌うのが普通です。これもどの音素がリズムのどこに乗って曲でどういう役割を果たすかを意識する必要があります。

たとえばこのThen I was young and unafraid(若くて怖いもの知らずだった)というフレーズのunafraidですが、米国英語ではunafr<ai>dというアクセントになります。なのでメロディもそこが最高音になっていますが、その前のunを表拍に置くと強すぎるので、弱く裏拍に置いています。こういうのを繰り返していくと英語らしくなっていきます。
ちなみに英国英語ではun<a>fraidというアクセントになるらしいので、これを表拍で音を伸ばして、fraidを裏拍に持っていくとそれっぽくなるのかもしれません。知らんけど。

ちなみにミュージカルと言っても色々あって、ヅカ、東宝、四季、ブロードウェイ、映画などなど全然歌い方が違います。この動画を見るとわかりやすいです(お笑いなので誇張しすぎですがw)

これを見て笑える人は、もう立派なミュージカルファンですw

まとめ

前回、今回と延べ10曲オーケストラと共演させて貰っているわけですが、私はカバーばかりなので、自己表現ができるところは調声しかありません。そこでお客さんが喜んでくれたり、他のボカロP(有名Pさんばかり!)が表現を取り入れたりしてくれるのはこちらも嬉しいものです。
このコンサートは補助金や税金が投入されている市民コンサートでもあるので、音声合成ファンとボカロPだけが楽しめるものであってはいけないと思います。その意味で、セイカさんのファンはもちろん、それ以外の(ささつづとかの)ファン、オーケストラのファン、地元住民、全てが楽しめるコンサートになっていてとても良かったと思います。また、自分が知らないものに興味が湧いたら、そちらも覗いてみると案外良いかもしれませんよ?例えば有名ゲームなら最近はオーケストラコンサートが開催されることも多いですから、ぜひチェックしてみてください。原神のコンサートはチケット取れなかったけどな!

こういうところで機会を頂けるのはとてもありがたく、またそれに見合うようこの場にふさわしい表現をしてきたつもりですので、今後も見捨てないでください(笑)

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