謎の名物「トゥルデルニーク Trdelník」
チェコに旅行したとき、トゥルデルニークを食べたことのある人も多いのではないでしょうか。
寒い季節だとほかほかでおいしかったりしますし、夏はアイスをのせたりして、アガる食べ物でもあります。
"映える"屋台スイーツ
観光スポットに必ずあって、甘い香りがするため、チェコに初めて旅行する人が買いたがる気持ちはよくわかります。
私もチェコ旅行中に、2度ほど買ったことがあるような気がします。自分で買っていなくても、一緒に行った人が買っていたことも何度かあります。
2019年には東京・麻布十番にトゥルデルニーク屋さんができたこともありました。
華々しくメディアにも紹介され、お店のSNSも力が入っていて、こりゃ日本でもトゥルデルニークが流行ったりするのかなと思っていましたが、2019年3月30日開店、そして同年8月5日に閉店という、あっという間の出来事でした。
まあ、コロナパンデミックの最初の外出自粛のタイミングでしたので、それもあったのかもしれません。
いまもお店のInstagramのアカウントが残っていますが、ポップでカラフルなインスタ映えしそうなお店でしたね。結局わたしも行ったことはありませんでしたが。
観光客をあざむくトゥルデルニーク
この麻布十番のトゥルデルニーク屋がひたすら「チェコ」を前面に出してお店をPRしていましたし、「あー、チェコでこれ食べた!」となるアイテムではありますが…
トゥルデルニークはチェコの昔ながらの伝統的なお菓子、とかいうわけではありません。
私が初めてチェコに行ったのは1997年でしたが、その頃にはトゥルデルニークなんて見かけることはなかったです。
2005年くらいから見かけるようになり、あっという間に人気の屋台スイーツになりました。
2010年くらいでしょうか。
あまりにトゥルデルニークが幅を利かせていて、一時的な流行ではなさそうなので、チェコ人にも聞いてみたことがあります。
「どこのものかわからない」
「チェコの伝統ではない」
「でもおいしそうだよね」
という、私の感覚とほとんど変わらない答えが聞かれました。そうなんだ。
トゥルデルニークの起源…日本語wiki編
では、トゥルデルニークは何者なのか。
手近なところで日本語wikiを見ますと、なんと「トルデルニーク」の項目があり、モラビアやスロバキアの食べ物だと書いてあります。
「知られていた」って… 誰に?という気持ちが浮かびます。
そして、「類似のペイストリー類」ってトゥルデルニークの話じゃないのかよ!というツッコミもどうしても心に浮かびます。
この日本語wikiのたどたどしさからすると、書き手も確固たる証拠をつかんでいるわけではなさそうだし、そこまで信用できる内容とも思えません。
(チェコ周りのwikiではよくあることなのでしょうが)
トゥルデルニークの起源…英語wiki編
もう少し自分でも情報を得たいので、英語のwikiの「trdelník」のページを見て見ました。
こちらではかつてのハンガリー王国発祥とあります。
そして、ハンガリー王国、ということはチェコとは関係がありません…。スロバキアならハンガリー王国と関連がありますけど。チェコはないのです。
さらに英語wikiを読みすすめると。
上に挙げた日本語wikiのベースとなったと思われる内容が続いていました。日本語wikiはこの部分だけ切り抜いて訳したようです。なんでハンガリー王国の記述を省略したんだろう。不注意?
トゥルデルニークの起源…チェコ語wiki編
自分でもう少しいろんな情報にあたってみたいので、チェコ語wikiで「trdelník」の項目を確認したところ、「トランシルバニア、現在のルーマニアの発祥である」とあります。
チェコ人にとってはこれが納得のいく解説なのだと思われます。そして、英語wikiのハンガリー王国という説明とも整合性が取れています。
なんとなくドイツのバウムクーヘンの影響を受けた食べ物なのかなと思ったことがありましたが、そうではなくどうも南の方から来たようですね。
ページを読み進めるとさらに詳しい情報がありますが、ここまでいろいろな状況も合わせて考えると、この情報がチェコ人みんなが知っている常識、ということでもなさそうです。
チェコ人がいう。 これ、チェコとは関係ないよ!
私のような日本人チェコファンがあーだこーだ言っててもしかたありませんが、同じことをチェコ人もYouTubeでまとめていてくれています。
ああ、やっぱりそうですか。「ですよねー!」と言いたくなる動画です。
チェコの観光ジャーナリズムYouTubeチャンネル「Honest Guide」。
トゥルデルニークはチェコの伝統じゃない、とチェコ人目線で根拠を挙げて英語で説明しています。
詳しくは動画を見ていただきたいですが、チェコ人の目線、洞察による検証は本当にわかりやすくてためになります。
「トゥルデルニークはプラハのどこでも買えるわけではなく、観光客のいる中心地でしか売られていない。
そして時には150コルナもする。チェコ人のランチ一食分!ビールなら2杯分!」
こんなのチェコ人は絶対買わない。そうでしょうそうでしょう。
たしかに、私が初めてプラハに来たとき、トゥルデルニーク屋さんはゼロでしたが、マクドナルドは数軒ありましたし。
この動画はコロナ禍前、ロシアによるウクライナ侵攻前に作られたものなので、今だと物価ももっと上がっています。
トゥルデルニーク、いくらになっているんだろう。
じゃあ、なんでプラハで売ってるんだ
プラハでトゥルデルニークを楽しんだ方の中には
「なんで名物でもないのに売ってるんだ」
とこの記事を読んで不愉快になった方もいるかもしれないのですが、
もしよかったらそのまま「なんでだ」と心の中に思っておいてほしいです。
「なんでだ」と気にしながら過ごすことにより、少しずつチェコという国のことがわかってきますから…。
ご紹介したYouTubeでも言ってますが、私もべつにトゥルデルニークを食べてもいいと思いますし、プラハの名所でトゥルデルニークと自撮りしてもいいと思っています。ご自身がそれで楽しいなら。
しかし。
そういう外国人がチェコ人の目にどう映るかとか、自分がやってることがチェコ人を嫌な気持ちにさせていないか、ということが私はとても気になります。
だって、私はこれからもチェコ語を使っていきたいし、この先もチェコに行きたいし、できればチェコ人と仲良くしたいし、その気持ちをわかりたいと思っているから、無知のまま、無神経でいたくないんですよね…。
「プラハで売られているならチェコのものに決まってるでしょ」と自動的に思われるのかもしれませんが、チェコにてそれは真ならず。
そして、それとは別に、トゥルデルニークがあたたかくておいしい旅の記憶、という部分も認めたいと思っています。
それではみなさま、良い旅を。