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ホルベックさんの思い出抄(チェコ人になりたい女の子のおはなしより)

1998年10月28日に開設した「チェコ人になりたい女の子のおはなし」というサイトのコンテンツをこちらに載せています。

日本の食べ物

ホルベックさんはショーケース内のロウでできた料理のサンプルを見て
ビーフシチューを選ぶことが多かったようです。
シチューという英語にあたるチェコ語を知らないので
チェコ料理のグラーシュという煮込み料理に似ていると説明しました。
出てきたビーフシチューはちょっと野菜が多く
グラーシュとは違うように見えますが。

チェコは内陸国ですから、海の食べ物は珍しいものです。
川魚は食べることがあるのですが、
島国日本は、海産物がたくさんですから、いろいろびっくりしたことがあったでしょう。
ホルベックさんは会社の人に連れられて「いか屋」に行きました。
ホルベックさんは、行きたくないようで、
会社の人が「海の食べ物を食べに行きませんか」と誘ったとき、
「…今日は行くことにします」と答えていました。

「いか屋」というお店は、いけすで無数のイカが泳ぎ、
そしてそのイカがまだ動いている状態で皿に盛られるのです。
よく考えると、確かに気色悪い気もします。
ホルベックさんは、どうも怖がってたようでした。

初めて一緒に昼食を食べたときは、
わたしはちらし寿司を注文して、エビを喜んで食べていました。
ホルベックさんはそれを覚えていたみたいで
最後の夕食のとき、おなかと胸がいっぱいでエビフライを残していると、
「好きなのに、たべないの?」と言われました。



仕事風景

どうやってガラスを削るのかというと、
まるでミシンのような機械で、中央部に小さな「コロ」がついているものが作業台です。
このコロが電動で回転しているところに、グラスを当てて傷をつけていきます。
傷をいくつか重ねたり、つなげたりして、図柄や文字を描くのです。

コロは銅でできた円盤状のものを中心に
厚みや大きさの違うものが何種類もそろっていて、
機械の下にある引き出しに並べてありました。
まるで歯医者さんのように。
ちいさな絵柄を彫るのにも30~40回もコロをつけ替えるのだそうです。

コロの他にも、デッサン用の白い色鉛筆、
コロとグラスの潤滑油になる石油の入った「チンザノ」の小瓶、
それからクッションが二つ。
このクッションは、回転するコロにグラスを当てるのに、
かなりの力でグラスを支えていなければならないので、ひじあてになるのです。
それからガラスの細かい削りかすを拭う糸の束などが机にはありました。



とってもいい技術を持っている

「いか屋」では会社の人に聞かれました。
「ホルベックさん、あなたは本当にいい技術を持っていますよ。すごい才能ですよ。
 将来は、どんなふうになりたいですか。どんなことをしたいですか。」

わたしのチェコ語訳を聞いて、
質問の内容はわかったようですが、少し苦笑いして考えていました。
「年をとったら、趣味のつりを田舎のセカンドハウスでのんびりして。。。
 もうグラスを削るのはやりたくないねぇ。。。」

わたしが訳そうとすると、会社の人は続けました。
「いやね、わたしはね、
 あのきれいな絵を描くハンガリー人のペインターにも
 おんなじことを聞いてみたんですよ。
 そしたら、なんて答えたと思います?
 あんなに美しい絵を描ける、世界一というくらいのペインターですよ。
 その彼が答えたのはこうです。
 『わたしはもっとうまく絵を描けるようになりたい』

 びっくりでしょう。あれ以上のことをまだやろうとしてる。
 プロってもんですよ。
 ホルベックさんもね、世界一のエングレーバーですから、
 どんなことをかんがえているのかな、って・・・」



 (2024年の筆者より)
ホルベックさんにはその後、お住まいのカルロヴィ・ヴァリまで訪ねていき、奥様と三人でカルロヴィ・ヴァリを散策する機会をいただきました。
チェコにいるホルベックさんはリラックスしてて、楽しそうに見えました。

個人的には、この時のお仕事でそばで作業されてたハンガリー人のペインターさん、通訳さんが、チェコ人に比べるととても対照的だったのもよく覚えています。
よくチェコとハンガリーはさまざまな面で、近いとか似ていると見なされることがありますが、この通訳の経験もあって、この二つの国の人たちは、ぜんぜん違う性質だといまも思います。

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Hatsue Kajihara
ここまで読んでいただき、とってもうれしいです。サポートという形でご支援いただいたら、それもとってもうれしいです。いっしょにチェコ語を勉強できたらそれがいちばんうれしいです。