【ショート・ショート】癖
「あのう。おば、あっ、おねえさん」
小さい女の子が私を見上げている。
その子は、母親から若い女の人には「おねえさん」って言うように躾られているらしい。私としても、レポータとして時々テレビにも映るから、日々美容には気を使い若さの保持にも努力している。しかしこの子には、私がその「若い女の人」に当たるかどうか判断が付かなかったらしく、それが先ほどの言い直しにつながったようだ。
「はい。何か、ご用?」
私はしゃがんでその子の目を見つめた。髪の長い女の子。私は、四、五歳ぐらいかなと見当を付ける。
「あの、これ……」
おずおずと差し出された両の手には、リボンがかけられた小さな包みが乗っている。仕事柄、街頭でも話しかけられたり、握手やサインを求められたりすることも多いが、子供からプレゼントを貰うのは初めてだ。少し戸惑ってしまう。
「あら、ありがとう。何かしら」
女の子はちらっと後ろを振り返る素振りを見せる。視線を追うと建物の陰に母親らしい姿を認めた。どうもこの状況は彼女が仕組んだもののようだ。
「開けてもいい?」
「うん」
女の子は大きく頷く。破かないように注意を払って包みを開けると、中から出てきたのは陶器で出来た可愛らしい犬の置物。
――ん?
私が犬の置物を集めていることを知っている人は、そう多くはない。
「あら可愛い。これ本当に貰っていいの?」
うん。またもこくりと首を振る。
「お名前は?」
「……舞」
「そう。舞ちゃんは、何処から来たの?」
「あっち」
舞ちゃんはまたも後ろを伺う。母親から指示されたことは、すべてやり終えたらしい。黙りこくってしまった。
――母親に試されている。誰だろう。
私は話の接ぎ穂を探す。が、相手が子供ではなかなか思い浮かばない。私の視線に射られて、彼女は困った顔になった。少し俯きがちで唇を少し尖らす。そして同時に手を後ろ手に組みながら、足をもじもじさせた。
あっ。私の記憶の糸に引っかかるものがあった。
「妙子ね。お母さんの名前、妙子って言うでしょう」
少女が答える前に私は立ち上がって、人影に向かって声をかけた。
「妙子、出てらっしゃい」
「やっと分かったか」
笑いながら出てきた母親は、昔同じ癖を持っていた私の幼なじみだった。
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