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ショート・ショート

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今まで投稿したショート・ショートを纏めました。2,000文字以下の短い話ですが、「落ち(下げ)」に拘って書いてます。
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#コーヒー

【ショート・ショート】コーヒーメーカー

【ショート・ショート】コーヒーメーカー

 コーヒーメーカーについて、今更とやかく説明する必要もないだろう。

 私は今春から社会人になった。しばらくは自宅から通勤していたが、段々仕事が忙しくなり、意を決してワンルームマンションを借りて一人暮らしを始めた。
 ワンルームしかなくて何がマンションだとの批判はご尤もだが、それは兎も角、電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機、それにエアコンと一通りの電気製品が備わっており、ガスコンロも使えるので、引っ越し当

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【ショート・ショート】写真

【ショート・ショート】写真

 カラン、カラン。カウベルが勢いよく鳴って、明子が入ってきた。
 近くの喫茶店。
「ママ、コーヒー、お願い」
 薄手のコートを脱ぎながら、裕一の向かいに滑り込んだ。
「ゴメン、出掛けに母に捕まっちゃって」
 と片目をつぶり、拝む仕草をする。いい表情だ。パシャッ。心の中でシャッターを切る。
 今日はカメラを持参していない。

「用って何?」
「小母さんから、アッコが結婚するって聞いたから」
「しない

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【ショート・ショート】電話

【ショート・ショート】電話

「もう着いたかしら」
 陽子は、空を見上げながら、呟く。

 まだ心に大きな穴があいたままだが、陽子は幾分心の落ち着きを取り戻してきた。
「骨は海に流してくれ」
 そう言われても、いつ流していいのか分からない。何の根拠もないまま、四十九日目のその日、夫の骨を海に撒いた。

 夫の田舎は九州の海辺に面した小さな町である。何度か一緒に行ったことがある。夫は、ここ数年ですっかり様変わりしてしまったと嘆い

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【ショート・ショート】夢

【ショート・ショート】夢

 週末。朝食を作るのは、大抵、私の役だ。妻は、支度を終えた頃を見計らって、起きてくる。

 今日は、その時間をとうに過ぎたのに、妻は未だ顔を見せない。折角の料理が、冷めてしまう。
 コーヒーを片手に寝室を覗くと、妻がベッドの上で伸びをしていた。起きたばかりらしい。髪が逆立たっている。
「おはよう。今朝は、どうしたんだい?」
 妻は、目を閉じたまま、
「あーあっ、損した」
 と息巻く。
「何を?」

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