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来戸 廉
2024年3月5日 08:48
爪を噛むのが、あなたの癖だった。 考え事をしている時の、あなたの悪い癖。 何度注意しても直らなかった。 握りしめた時の、手のひらに当たる爪の硬い感触が厭なのだそうだ。「気になって、集中できないんだ」「変なの」 私が笑うそばから、まだ不満らしく歯を立てている。「止めてよ、みっともないから。貸して」 あなたの手を掴んで、爪切りで整える。 パチン、パチン。 尖った切り口をヤスリで
2024年1月29日 15:23
「かあさん、胃薬なかったかな」 藤田は、妻のかおりに尋ねた。「どうしたの」「どうも胃の調子がな」 藤田は、このところ胃の辺りに鈍痛を感じていた。「猛のところで診てもらったら」「いや、いいよ。それほどじゃないから」「未だまだ、お父さんには元気でいてもらわなくちゃ。猛の結婚も未だだし……」「ただの飲み過ぎだよ」「おとうさんに万が一のことがあったら……」 かおりは、涙ぐんでいる。「
2024年1月29日 15:21
「あのう。おば、あっ、おねえさん」 小さい女の子が私を見上げている。 その子は、母親から若い女の人には「おねえさん」って言うように躾られているらしい。私としても、レポータとして時々テレビにも映るから、日々美容には気を使い若さの保持にも努力している。しかしこの子には、私がその「若い女の人」に当たるかどうか判断が付かなかったらしく、それが先ほどの言い直しにつながったようだ。「はい。何か、ご用?」