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来戸 廉
2024年8月29日 14:51
昨夜の雨が嘘のように、空は晴れ渡っている。雨に洗われた空気が一層透明感を増したようだ。 早秋の公園は昼下がりでも少し肌寒い。 久しぶりに訪れた公園の芝は、汚れを流して輝いている。山側に樹々が繁り、海側に芝生が養生されていて、その中を小径が通る。他には余計なものは何もない。そこが私が気に入ってる理由でもある。 葉を落として軽くなった樹の枝々の間から日が射して、芝の上に日溜まりを作っている。そ
2024年2月3日 06:14
まもなく電車が到着すると、アナウンスが告げている。 大学受験で上京する私。もう子供じゃないんだからいいと言うのに、母は駅まで送ると聞かない。父まで付いてきた。 車の中で父は、何処何処の娘は東京に行ったまま帰ってこないと、私に重ねる。願書を出した日からそれが続いている。母は母で、朝食はちゃんと摂るんだよとか、水には気を付けろとか、顔を合わせる度に繰り返す。耳にタコができた。 たかだか二三日
2024年1月26日 15:49
電車に一歩乗り入れた途端、私は打たれたように立ち止まってしまった。反対側の席で本を読んでいる男性。間違いない。青春時代、夫と知り合う前のほろ苦い思い出。今ではもう思い出すことはないけど、決して忘れることも出来ない人。「どうしたの?」 娘の声で我に返った。「ううん、何でもない」 あの人の向かいの席が空いている。私は躊躇したが、娘が促すので、仕方なく並んで座った。だが私は気が気ではない。