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来戸 廉
2024年10月12日 09:32
「ちょっと出かけてくるよ」 それが、あの人の最後の言葉になろうとは夢にも思わなかった。 あの日、あの人は朝早くから秋葉原まで出掛けていった。 午後過ぎ、右手にどこかのパソコンショップの紙袋、左手にToposのケーキを持ってのご帰還。求める物が手に入ったようで、すこぶる上機嫌な夫は、私や子供達へのお土産を忘れていない。「お茶でも入れる?」「後でいいよ。先にやってしまうから」 そう言いな
2024年4月11日 08:56
「これ、お友達から誕生日のお祝いだって……」 母が消毒済みのタブレットを持って無菌室に入ってきた。 高校の女子サッカー部の仲間からのメッセージビデオらしい。「こんな姿、友達に見せたくない」 私は泣いた。白血病の抗癌剤の副作用で、髪が抜け、顔がむくんでいる。 そんな私のために、母はテレビ電話でお祝いしたいという申し出をうまく断ってくれた。 私は早速ビデオ動画を再生する。「器械への悪
2024年3月4日 10:07
「お前、よく入るなあ」 妻が、夕食の後にケーキをパク付いている。「ケーキは、別腹よ」 知子は、腹をポンと叩く。「ベツバラってなあに?」 側耳を立てていた「なあに君」が、すかさず聞く。 息子の竜也は三歳。何でも知りたがる年頃だ。「なあに?」「なあに?」と、いつも好奇心のアンテナを立てている。「それはね、ご飯を食べるお腹と、ケーキを食べるお腹は別だってことなの」 なあに君は、首を傾げ