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来戸 廉
2025年1月31日 11:03
「ついに来おったか」 妻の様子がおかしいのに気づいたのは、三年前のことだった。 この病気が、遺伝するのかどうか分からない。妻の母親が認知症だったから気に掛けてはいたのだが、こんなに早く発症するとは思いもよらなかった。 すっかり症状が進んで子供みたいになった妻が、縁側のロッキングチェアに座っている。 春先の日差しが心地よいのか、私が揺するリズムに眠りこけている。平穏な寝顔を見ていると、病気
2024年2月5日 13:14
パン、パパーン。花火の音が聞こえる。どこかで運動会が行われるようだ。 ――走るのはあまり好きじゃなかったなあ。 場違いな思いが頭を過ぎる。 私は徒競走が苦手だった。三位までに入賞するとノートや鉛筆がもらえるのだが、人と競うことが嫌いだった私は、いつもビリかブービーだった。 そんな私が初めて賞品をもらった種目。それが二人三脚だった。忘れもしない六年生の秋。相手に合わせるのは苦にならなかっ