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来戸 廉
2024年3月10日 16:30
「ねえ、あの時出会わなかったら、私達どうなっていたのかしら?」「どうもなっていないよ。別の日に出会っているさ」「別の日に出会っても、私達付き合うかどうか分からないじゃない」「いや、付き合ってたさ」「どうして分かるの?」「でなけりゃ、君にこんな質問されていないさ」若い恋人達の囁きにも哲学がある。
2024年3月5日 08:48
爪を噛むのが、あなたの癖だった。 考え事をしている時の、あなたの悪い癖。 何度注意しても直らなかった。 握りしめた時の、手のひらに当たる爪の硬い感触が厭なのだそうだ。「気になって、集中できないんだ」「変なの」 私が笑うそばから、まだ不満らしく歯を立てている。「止めてよ、みっともないから。貸して」 あなたの手を掴んで、爪切りで整える。 パチン、パチン。 尖った切り口をヤスリで
2024年3月4日 10:07
「お前、よく入るなあ」 妻が、夕食の後にケーキをパク付いている。「ケーキは、別腹よ」 知子は、腹をポンと叩く。「ベツバラってなあに?」 側耳を立てていた「なあに君」が、すかさず聞く。 息子の竜也は三歳。何でも知りたがる年頃だ。「なあに?」「なあに?」と、いつも好奇心のアンテナを立てている。「それはね、ご飯を食べるお腹と、ケーキを食べるお腹は別だってことなの」 なあに君は、首を傾げ
2024年3月2日 09:24
「お兄ちゃん、居る?」 由紀子が窓の下から呼ぶ。「朝っぱらから大きな声を出すなよ」 孝は二日酔いの頭を抱えながら、窓から顔を出した。「いつまで寝てるの。もう、お昼だよ」「いいから、上がって来いよ」 おばさん、こんにちはと言う声が聞こえたかと思うと、トントントンと階段を上る音がして、由紀子が入ってきた。「酒臭ぁーい。また遅くまで飲んでいたんでしょう」「うるさいなぁ。まったくお袋みた