20190616金融庁報告書

老後2000万円の報告書を読んでみました


マスコミのいい加減な報道で「老後2000万円」という言葉だけが独り歩きして、様々な方面で話題満載の金融審議会の報告書ですが、マスコミ得意の切り取り報道をそのまま鵜呑みにしてはならないので、じっくりと読みました。この報告書はダウンロードできます。

まずは私の感想から
私の個人的な感想ですが、この報告書は今まで言われてきたことを書面にしたもので、特別新しい内容の報告があるわけではないのですが、国民に対して投資の議論を起こすことを期待しているようです。
現在の年金だけで老後の生活ができると思っている人はいないでしょうし、毎月5万円程度の不足額が出るくらいのことはほとんどの国民は薄々感じていた。
それをこのような報告書で数字をもって明示したことで、噛み付いてきたマスコミや野党は、これを材料に新しい社会保障制度を提案すれば良いのに、相変わらず川の向こう岸から吠えているだけ。これでは今後、役所からの報告書は抽象的でわかりにくい霞が関文章でしか記載されなくなるでしょう。

せっかくの良い報告書なので改めて考える良い機会です。


報告書を見てみます

この報告書の正式名称は

金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書
「高齢社会における資産形成・管理」

マスコミが取り上げている「老後2000万円」という言葉は2か所に記載されていますが、それは後程。

はじめに

P1 
・金融機関は既存のビジネスモデルの変革を強く求められている状況にある。
・金融を巡る特に大きな背景の変化として挙げられるのが、人口減少・高齢化の進展である。
・金融サービスもその例外ではなく、変化すべきシステムの一つである。

・個々人においては「人生 100 年時代」に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと、
・金融サービス提供者においてはこうした社会的変化に適切に対応していくとともに、それに沿った金融商品・金融サービスを提供することがかつてないほど要請されている。

P2
・国民に本報告書の問題意識を訴え続け、国民間での議論を喚起することにより、中長期的に本テーマにかかる国民の認識がさらに深まっていくことを期待する。

【私のコメント】
ここでは、金融機関のビジネスモデルの変革を求められているを言っています。そして最後に、国民間での議論を喚起して、認識が深まること期待する、と目的を掲げています。

1.現状整理

P3
・平均寿命は男性約 81 歳、女性約 87 歳と、日本人は年々長寿化している。
・1950 年頃の男 性の平均寿命は約 60 歳であったが、現在は約 81 歳まで伸びている。現在 60 歳の人の約4分の1が 95 歳まで生きるという試算もあり。

【私のコメント】
ここで95歳という数字が出てきますが4分の1の人が95歳になりますが、残りの4分の3は95歳まで生きられないのです。
この4分の1という数字を取り上げずに、2000万円だけを大々的に報道して炎上させているのです。しかし懸命な国民はそれには乗らずに冷ややかにスルーしています。そのうえ経済ジャーナリストや経済評論家がテレビのワイドショーで驚いたように発言しているのを(本当は知っているはずです)冷笑してます。

P4
・健康寿命は、 男性で約72歳、女性で約75歳である。
・平均寿命から考えると9~12年は、 就労が困難など、日常生活に何らかの制限が加わる形で生活を送る可能性 がある。

P10
・高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。
・この毎月の赤字額は自信が保有する金融資産より補填することとなる。

P16
・65 歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯、単身男性、単身女性のそれぞれで、2,252 万円、1,552 万円、1,506 万円となっている。

・収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20 年で約 1,300 万円、30 年で約 2,000 万円の取崩しが必要になる。

【私のコメント】
ここで、30年間で2000万円という言葉が出てきます。しかし、平均寿命が男性約 81 歳、女性約 87 歳であれば、30年ではなく「20年で約1,300万円」を使う方が現実的です。

P17
・わが国でも後述するつみたて NISA や iDeCo 等が整備され、個人が長期の資産形成を行うに際して、制度的な環境が整いつつある。

P19
・資産寿命2を延ばすために必要なことを尋ねた調査によれば、
「現役で働く期間を延ばす」、「生活費の節約」を挙げる回答が多いが、このほかに約3割の者は「若いうちから少しずつ資産形成に取り組む」を挙げている。

P20
・投資による資産形成の必要性を感じつつも、投資を行わない理由として上位を占めているのが、「まとまった資金がない」、「投資に関する知識がない」、「どのように有価証券を購入したらよいのかわからない」という回答であり、顧客側の問題に加え、金融機関側が顧客のニーズや悩みに寄り添いきれていない状況が窺える。

【私のコメント】
・それに加えて、資産が減るので怖い、リスクがある等のマイナス面ばかりをマスコミが面白おかしく、激しく報道するのですから投資をする意欲がなくなります。

2.基本的な視点および考え方

P21
・高齢社会における金融サービスに関して、個々人及び金融サービス提供者の双方が共に認識することが望ましい事項が導き出されるのではないかと考えられる。

・夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ 20~30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で 1,300 万円~2,000 万円になる

・重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。

【私のコメント】
再度、2000万円という言葉が出てきましたが、2000万円という言葉が出てくるのは2か所だけです。その前提として、「夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円」、「30年間」なのですがこの前提がほとんど出てこないのは何かの意図が感じられます。
個々人にとっても金融サービスの立場に立っても、現役期、リタイア期前後、高齢期に分けて考え方を提示しています。

P29~31で
・「つみたてNISA」と「iDeCo」についての利用増加のための検討事項や改善点を提示しています。

P32
・金融リテラシーの向上に向けた取組みも重要である
・個々人が金融サービスに向き合うための基礎となる一つの考え方として、関係省庁・企業・機関・地方公共団体等の協力を得つつ、ライフステージ毎の 様々な機会を捉えて広く浸透を図っていくことが望まれる。

P33
・個々人に的確なアドバイスができるアドバイザーの存在が重要である。
・特に強く求められるのは顧客の最善の利益を追求する立場に立って、顧客のライフステージに応じ、マネープランの策定などの総合的なアドバイスを提供できるアドバイザーである。
・こうしたアドバイザーとなり得る主体としては、投資助言・代理業、金融商品仲介業、保険代理店やフィナンシャルプランナーなど様々な業者が存在する。

【私のコメント】
ここにきて金融機関や専門アドバイザーの使い方について記述があり、金融機関にとっては良いセールス材料になるでしょう。

おわりに

P35
・高齢社会における金融の目指すべき姿とは何かをテーマに、金融サービス提供者や専門家の意見を伺いながら議論を重ねた検討結果である。

・特に 2025 年は、いわゆる団塊の世代が 75 歳を迎える年とされる。
・その先の 2030 年ごろにはもう一つの人口の塊である団塊の世代ジュニアの者が 60 代となり、資産の取崩し期を迎えることが予想される。

【私のコメント】
最後になって、この報告書の目的が出てきました。
言いたいことは、「高齢社会における金融の目指すべき姿とは何か」。
国民の生活を論じてますが、本当は金融サービス提供者に対する方向性を報告したのでしょう。


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