東京大学大学院 地球惑星科学専攻 院試体験記


1.はじめに

 私は東京大学理学部地球惑星物理学科に所属する学部4年生です。今回、同じく東京大学の理学系研究科地球惑星科学専攻の大学院入試(修士)を受験したため、その体験記をnoteにまとめてみました。外部生の院試体験記は結構ネットに転がっているのですが、意外と内部生の体験記は見つからないんですよね。内部生・外部生問わず、これから地球惑星科学専攻を受ける後輩のみなさんの参考になれば幸いです。(サンプル数n=1なので、アテにならないかもしれないけど…)


2.院試の概要

 理学系研究科の院試は例年、8月の中旬(だいたい20日ぐらい)に筆記試験が行われます。地球惑星科学専攻の場合、筆記試験の1週間後に口述試験対象者が発表され、口述試験(面接)に進むという流れになっています。
 筆記試験は、専門科目(2科目)とTOEFL ITPから成り、配点は専門科目が1科目200点×2科目で400点満点、TOEFLが100点満点で、合計500点満点と言われていますが明かされていないので何とも言えません。専門科目は、数学・物理学・化学・生物学・地球科学の中から2科目を当日選んで解答する形となっています。ただし、研究室によって要望している科目があるため注意が必要です。私は数学と物理学で受験しました。TOEFLについては来年度から、院試会場で一斉受験する形式のTOEFL ITPから、院試前に受験したスコアを提出する形のTOEFL IBT(TOEICでもいいらしい)に変更になるようなので、あまり参考にならないかもしれません。
東大の地球惑星科学専攻は定員が約100名と非常に多いこともあり、例年倍率は1.5倍に満たないようです。(なぜか今年は少し出願者数が多く、ほぼほぼ1.5倍でしたが…)
およそ5割(250/500)取れれば受かると言った情報や、6割(300/500)あれば確実といった情報が散見され、一概にどの情報が正しいとは言えませんが、個人的には200点台後半くらいあれば良いのかなと勝手に思っていました。
 口述試験は、大気気海洋科学、宇宙惑星科学、地球惑星システム科学、固体地球科学、地球生命圏科学の5つのグループごとに行われ、同時に3つまで併願することができます。また稀に、出願していないグループにも筆記試験で合格し、口述試験を受けるよう勧められることもあるようです。口述試験は学生と研究室のマッチングをするという意図があるため、圧迫面接ではなく比較的ゆるい雰囲気であると思います。(グループごとに差があるかもしれません) 

3.院試対策

 先輩や地球惑星科学専攻の教員方から、「地物の学生は数十年に一度の逸材じゃないと落ちない」と聞いていたため、院試直前まであまり勉強していませんでした。具体的には、院試一ヶ月前まではほぼ院試対策の勉強をしていませんでした。さらに私の場合は、3年次にサボりすぎてしまったこともあり、4年で取得しなければならない単位数が多く、Sセメスターの期末試験や期末レポートの提出が終わるまでなかなか院試対策に手を付けられませんでした。(計画性大事!笑) 
院試の勉強に専念できるようになったのは8月に入ってからで、院試まで3週間ほどしか時間が無かったことになります。限られた時間の中でどのような勉強をしたのか、ここでは紹介していきます。(私のようにギリギリにならないのをオススメします…)
 専門科目は地球惑星科学専攻のホームページに出題範囲が公開されています。基本は過去問をぶん回しながら、穴のある範囲を一つずつ潰していくというスタイルで勉強をしていました 。

◯数学

 近年は大問1が小問集合、大問2が特定の分野からの出題という形式になっています。幅広い範囲から出題されるため一概には言えませんが、行列と微分方程式は頻出です。他にも、積分計算や複素数に関する問題、ベクトル解析、統計に関する問題もよく出題されているイメージですね。特に積分計算や複素数に関する問題(複素積分以外)は高校数学の範囲であり、大学入試のような問題が出ることも特徴です。
 以上の通り出題範囲が非常に広く全範囲を復習するのも難しいため、私の場合はいきなり過去問を解いていくことにしました。過去問を解き、できなかった問題の範囲を復習していきました。私の場合、線形代数と微分方程式が頻出であるにも関わらず意外と忘れていたため、その2つを重点的に勉強しました。
複素積分は数年に一度出題されるのですが、学部生時代にあまりしっかり勉強をしていなかったため、出ないことを祈りました。(さすがに留数定理とジョルダンの補助定理ぐらきは復習しましたが…) 後輩の皆さんはしっかり物理数学の講義を受けましょう(笑)!
なぜか毎年出題される統計の問題はよく分からんので(高校で数Bの確率分布と統計的な推測をやっていれば簡単なのかも)、過去問で出た問題を解けるようにして、後は運に任せることにしました。
最終的に10年分ほど過去問を遡りましたが、最近の問題は分量が多く計算も煩雑になっていますね。とはいえ2016年〜2018年の問題は、大問2がやや迷走している気配があるので、それよりはマシなのかもしれませんね。上記の理由で、意外と10〜15年前くらいの過去問の方が良い練習になるかもしれません。

◯物理

 3つの大問からなり、それぞれ力学、電磁気学、熱力学から出題されます。どれも学部1,2年の頃に習う基礎的な内容(東大で言えば駒場の前期教養で習う範囲)が多く、他専攻に比べれば比較的易しめなのかもしれません。数年前までは、5科目すべての大問の中から好きな4題を選ぶ形式であったため3つの大問全てを解く必要は無かったのですが、現在は選択問題でなくなり、力学、電磁気学、熱力学の全てを解答しなければなりません。ただし全問必答になってから、問題は少し易しくなったような気がします。(もちろん、大問1つあたりの分量も減っています)

・力学
 力学は剛体の力学が頻出であり、ほぼ毎年出題されています。数年に一度、高校物理でやるような質点の力学が出題されることもあります。
剛体は大学で習う内容のため苦手意識のある方も多いかもしれませんが、慣性モーメントを使いこなせれば意外と簡単です。慣性モーメントの求め方や中心軸の定理、回転の運動方程式のあたりを重点的に復習すれば大丈夫だと思います。私は教養学部で習ったときの講義ノートを見返し、後はひたすら過去問演習をしていました。

・電磁気学
 本当に色々な範囲から出題されるため、1番対策がしづらいです。高校で習う範囲もそこそこ出題されるので高校の電磁気学を復習しつつ、大学で習う範囲を重点的に復習すると良いでしょう。マクスウェル方程式(ベクトルポテンシャルもたまに出る)、真空中の電磁波、電気双極子、磁気モーメントあたりは意外とよく出題されるイメージですね。電磁気学も力学と同様に、過去問を主に解いて対策をしました。私の場合は、電気双極子と磁気モーメントに苦手意識があったのですが、結局あまりちゃんと対策しないまま本番を迎えてしまいました。(これが後々仇となる…)

・熱力学
 3つの大問の中で、何なら数学物理の全大問の中で1番易しいのが熱力学だと個人的には思います。熱力学関数をひたすらに式変形する問題が多いので、それさえマスターしてしまえば得点源になります。後は熱力学サイクルも復習しておくと良いかも。実は熱力学に関して言えば、内部生が圧倒的に有利です。学部3年のSセメスターの講義である地球惑星物理学基礎演習の講義で扱う問題と、ほぼ同じような問題が出題されるためです。内部生は必ず熱力学の基礎演習を取り(一応選択科目)、院試前によく復習しましょう。熱力学と統計力学がセットになった演習なのですが、統計力学は出ないのでその範囲の問題は無視してしまって構いません(笑)   
外部生は過去問しかないため少し不利かもしれませんが、そうは言っても然程難しくはないため、過去問だけでも十分対策可能です。

◯TOEFL ITP

 来年からTOEFL ITPではなくなるため、詳細は割愛します。TOEFLのリスニングむずすぎ〜(泣)


4.筆記試験当日の感想

◯TOEFL ITP

 リスニングはほとんど分かりませんでした。まあ事前にリスニングが難しいことは知っていたので平常心を保てました。文法とリーディングはいつも通り8割くらいは取れた気がします。全部合わせて7割取れていれば良いかなという感じです。

 ここからは専門科目についてです。専門科目は当日解いた大問順に感想を述べていきます。

◯数学

・大問1
 いつも通りの小問集合でした。複素数の写像の問題、ドーナツ型の積分の問題は難なく解答。問題はそこからでした…
3つめの問題は微分方程式だったのですが、まさかのベルヌーイの微分方程式が出題。誘導に乗っかればベルヌーイの微分方程式を知らなくても解けそうではあったのですが、ほとんど覚えてなかった(一応学部の講義でやっているはずなのに…)のと、計算が面倒だったので撤退。
そして4問目。例年通り統計の問題だったのですが、なんとカイ二乗検定からの出題。完全にノーマークでしたね。期待度数の計算は流石にできたと思います。一応最後まで解きましたが、帰無仮説を棄却するかどうかの判断はできていない気がします。まあ、内部生にテスト後に聞いたところ、大半ができていなかったので問題ないかなとは思います。(笑)
一部の問題には苦戦しましたが、大問1の半分くらいは取れたと思います。

・大問2
 なんとなく、行列が出題されるならジョルダン標準形とか怪しそうだなぁ(行列はよく出題されるのにジョルダン標準形は見た限り出題されていなかったため)と思っていたらまさかの的中。これははっきり言ってめちゃくちゃラッキーでしたね。ただし、ジョルダン標準形が何かを知らなくても解答できるようにはなっていました。
問題の流れとしては、固有値に重解があり対角化てきない3次正方行列をジョルダン標準形に直し、それを利用して元の行列のn乗を求めるという感じでした。数年前に、二項定理を用いて行列のn乗を求める問題が出題されており、その解法を覚えていたのも良かったですね。ただし、最後のn乗の計算は、ジョルダン行列のn乗から元の行列のn乗に直す計算が面倒すぎたので、やり方だけ示して計算はしませんでした。
大問2は8割くらい取れているのではないかなと思います。大問1と合わせて、130/200くらい取れているのではないかな?と勝手に期待しておきます。

◯物理 

・熱力学
 かなり簡単でしたね。完答できたと思います。周りの内部生もほとんど解答できていたので、この問題ができないと厳しいかも…
基本的には誘導に乗っかりながら、熱力学関係式を変形していくだけの問題です。途中から光子気体について議論し、最後は熱力学サイクルについて考える問題でしたが、いずれにせよ解きやすかったですね。

・力学
 まさかの質点の問題。あんなに慣性モーメントを復習したのに…(泣)
三角台の斜面上にばねが取り付けられており、大きさの無視できる小球がばねにぶら下がっているという問題設定でした。小問1では三角台が固定されており、小問2では三角台も動くという条件でした。高校物理で同じようなことをやっていたはずなのに意外と忘れており、小問2があまりできませんでした。(お前それでも本当に物理系学部か!)
まあ半分は取れたかなという気がします。

・電磁気学
 まさかの電気双極子。1番出て欲しくないのが来てしまいました。何とか喰らいつき、電気双極子のポテンシャルを求めるところまではできた気がします。まあ、電気双極子はみんなもできてないから大丈夫でしょう!と信じたい…
4割くらい取れていれば上等ですかね。
ということで、全部の大問合わせて物理は120/200くらいじゃないかな?と思います。

5.総括

 まだ点数開示はできないので真偽の程は不明ですが、全科目合わせて320点くらいは取れたと思います。実際に筆記試験を通過し、面接でも落とされそうな雰囲気は無かったので、多分大丈夫な気がします。意外と3週間くらいでどうにかなってしまいましたね。流石にもう少し前からやっておいた方が良いとは思いますが…(笑)
口述試験の感想は、合格発表後に投稿しようと思います。得点開示も後日投稿するかもしれません。(あまりにも酷い点数だったら投稿しないかも)
というわけで、ごく平凡な内部生目線での地球惑星科学専攻の院試体験記でした。質問等あれば何でも聞いてください。それでは志望する後輩の皆さん、頑張ってください。

(10/23追記 無事大学院試験に合格しました。本日指導教官の希望も提出し、後は配属決定を待つのみです。 口述試験や得点開示などは後日投稿します。)
 
 






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