
Pityman ハミング・イン・ウォーター
~ユキの前髪~
前髪を切る。少しずつ。切り過ぎないように。小さな鋏がジョリジョリと音を立てる。私が今、切ろうとしているこの前髪は私の一部。ジョリ。そしてこれはもう私の一部ではない。ためらいもなくゴミ箱に捨てる。私は残された私の一部を今日も大事に洗い、トリートメントをして、ドライヤーの冷風を使いながらゆっくり乾かすだろう。
鏡の中の自分がどこか幼く見える。少し切りすぎたのかもしれない。私は私の一部だった髪の毛を拾い上げてみる。光を反射して栗色に光る、細く短い束。もう私たちはあなたとは関係のないものになったんだからほっておいてくれと、指の隙間からパラパラと零れ落ちる。
もうこれ以上は切る必要のない髪を鏡の中でいじくりまわす。なにか私にほんの少し落ち着きを与えてくれるものはないか鏡の中に探している。玄関のベルがなる。彼は鍵を持っているのに律儀にベルを鳴らして入ってくる。私はギリギリまで鏡の中を探すのをやめられないでいる。
Pityman 『ハミング・イン・ウォーター』@新宿眼科画廊 6月23日(土)~26日(火)
HP→ pityman.jimdo.com
MAIL→ pityman0@gmail.com