見出し画像

HCR報告③大手車椅子メーカーの開発動向




②より先に③を先の配信になってしまいましたが、HCR2024から見えた車椅子の大手メーカーについての動向をお伝えしたいと思います。

MiKi


ミキさんのブースはさまざまな車椅子がぎっしり展示していて、非常に楽しいブースでした。たまたま声をかけた方が開発部門の方だったので、何を目指して作られているのか、興味深いお話を聞くことができました。

6輪車椅子 SKRシリーズ


まず目を引いたのが6輪車椅子SKRでした。段差乗り越えが苦手な6輪でしたが、サスペンションをつけることでこれまでより高い段差を超えられるようにし、外出できるようにしたというものです。6輪の良さは、小回りが効くことに加えて、曲がる時の回転軸が体の中心に近いことです。そのため、座っている人は体が振り回されてる感が少なくなります。
ですから、家で6輪を使って外で4輪を使っている方は、4輪で曲がる時などは違和感(乗り物酔い)を感じていると思います。家で使っている6輪を外でも使えると、そうした違和感もなく、もっと外出を楽しめるかもしれません。

SKRシリーズには、ティルトリクライニングもあります。6輪なのでコンセプト上、どうしてもコンパクトな設計にはなりますが、適合すれば快適に乗れるのではないでしょうか。

段差乗り越え



ただ、6輪車はそれだけ部品が多いので車椅子の重さが重くなります。持ち上げなければならない場面がある場合は、持ち上げられるか? そして、行動範囲での段差の高さも確認しておく方がいいでしょう。
6輪車は、設定されている高さまでなら楽に段差を越えられますが、それ以上になると力技になり、かなりの力を必要とします。

車椅子の限界を認識しておくのも、車椅子と上手に付き合うコツかもしれません。

エアクッションで快適 エアフィッツシリーズ


次に拝見したのが、エアクッションを座面にもバックサポートにも貼り付けたエアフィットシリーズです。

エアクッションを前後に置いた
エアクッションを左右に置いて
背中のクッションも上下入れ替えた


一見、ちょっとやりすぎ?とも思える外見ですが、座るとなかなかないい座り心地です。
エアクッションは、ちょうどバリライトのソロクッションのようにバルブを開閉して空気量を調整するタイプのもので、座面は2つに分割。背面は上下に2分割、そのうち1つは左右にも分割されていて、それぞれに調整弁が付いています。車椅子にマジックテープでついているので、場所を変えて使うこともできます。例えば座面なら、左右にも前後にも置くことができます。

この車椅子に試乗して、一定数の方はハードシェルタイプのバックサポートは必要無くなるかもしれないと思いました。
というのも腰や背中に痛みがある方の場合、通常のバックサポートでは地面からの振動が強く響くため、バックサポートをアイコンバックやJAYバックに付け替えていました。しかし、レンタルでは在庫や単位数等お出ししにくかったのも事実です。
ハードシェルがない分、不安定さは残るかもしれませんが、背ばり調整機能で背骨の変形に対応しやすい長所があります。一定数の方の痛みは、これで軽減するのではないかと思います。

この車椅子はエアクッションに加えて背ばり調整機能もついていますから、円背(猫背)、側湾、骨突出、片麻痺、左右への傾き、滑り座りなど、これ一台で、かなり幅広く調整できるでしょう。
今回、展示はありませんでしたが、このエアクッションをつけたネクストローラ(フルリクライニング車椅子)もあるそうです。リクライニングの動きでクッションに隙間ができないか、ちょっとした疑問もありますが、気になる方は試してみてください。

???・・開発中オシャレ車椅子・・

開発の方と話していたら楽しすぎて、写真も撮らず、シリーズの名前を忘れました。ミキさんの中でオシャレ部門担当の車椅子が開発中でした。

そういえば、ミキさんのブース、なんとなくオシャレになった? スッキリしている? と思ったら、タイヤでした。ブースのタイヤが全て黒いのです。
グレーだとどうしても病院の車椅子を連想してしまいますが、タイヤが黒いだけで全然、イメージが変わりますね。

さらにオシャレに!と、フレームがマットブラックに塗装されている車椅子。シートも高齢者が好きそう・・みたいな色柄ではなくグレー(バックサポート)とブラック(クッション)。私ならバックサポートも黒かな。ただ、介助者が触れる部品がありがちなオレンジに・・ええ! 勿体無い! 
私なら黒か、赤かな〜? 
確かに暗いところでは黒は見にくいので、福祉用具と割り切るならオレンジで正解なのだけど・・。そもそもミキさんのブレーキレバーは黒だったのだし・・。
オシャレと実用の両立は難しい課題ですね。

立ち上がり補助車椅子(試作)


これもまだ開発段階らしいのですが、立ち上がりを補助する車椅子を体験しました。スイッチ一つで座面がお尻を持ち上げてくれます。これがあれば自分で立ち上がれる人もいるでしょうし、毎日、何度も移乗介助する家族の腰への負担はかなり減るのではないでしょうか。
1番必要なのは、恐らくはトイレ。そう考えると、コンパクトさも求められるでしょう。必要としている人が絶対にいますから、今後に期待したいと思います。

そこまでやるか!? 電動ユニット


そして、なんと電動ユニットの開発まで始めていました。これまではヤマハ発動機さんのユニットを取り付けて電動にしてきましたが、展示場にはグランドフリッチャー(ティルトリクライニング)に自社製の電動ユニットを取り付けたものを展示してありました。お話を伺うと、バッテリーも自社製とか。

また、グランドフリッチャーについていえば、エルゴエレベーティングが嬉しい進化をしていました。角度を変える支点を膝と同じ位置に持っていくために、えれベーティングが座面から上に飛び出していましたが、ほぼ飛び出しなく、膝支点で稼動するって凄い!

他にも電動アシスト機能付きなど、さまざまな可能性がいっぱい。
来年が楽しみなブースと、そして開発のスタッフさんでした。

地味に凄い部品開発

さらに今回のブースで初めて見せていただいたのが、キャスターがワンタッチで取り外せるキャスターフォーク・ワンタッチキャスタ。ミキさんの特許製品とカタログにも記載されています。工具を使わずにキャスターを外すことができます。これがあれば、高さ調整やメンテナンスの際の効率がかなり上がりますし、技術も必要なくなります。これは嬉しい進化でした。現場での耐久性等、これから評価されていくと思いますので期待を込めて見守りたいと思います。

工具なしでキャスタ外せる



また、久々にミキさんの総合カタログを拝見すると、総合カタログに、「マルチインナーパットF_15」というのを見つけました。簡単にいえばバックサポートに取り付けられる小さなパットです。
小さなパットは、体感が傾きがちな方に有効で、高さも自由に決められるのでとても使い勝手がいいのです。価格は書いてありませんが、これも広く活用されていくことを願っています。

体幹の傾きに


まとめ

今回のミキさんのブースは参考展示が数多く、販売が待ち通しいものがいくつもありました。車椅子のことなら全て自社でカバーしたい! そんな意気込みが見えるブースでした。


日進医療器


日進さんについては、ブースに行く前日にオンラインセミナーで新商品についてのプレゼンを拝見していました。その名もシン・ウルトラシリーズ。これはもしや、シン・ウルトラマンにかけているのでは?

営業おもいのシン・ウルトラ


シン・ウルトラのすごいところは、工具なしでさまざまな調整ができるところです。ああ、もう思い工具箱を持って行かなくて済む・・かもしれない。まさに福祉用具専門相談員の声を聞いてくださった!車椅子と言えるかもしれません。フットサポートの高さはもちろん、座幅調整と、バックサポートのシート高さも調整できるそうです。

シン・ウルトラのカタログ


嬉しい機能満載な中、私が注目したのはバックサポートのシート高を調整できることです。
日本国内にはさまざまな調整機能を持っている車椅子がありますが、バックサポートのシート高を変更できる車椅子はほとんど見当たりません。しかし、人によって座高は違うし、使うクッションの厚さによっても座高が変わります。ですから、バックサポートのシート高は「なんでもいい」訳ではないのです。

さすがの着眼点!と喜ぶと共に、調整幅が2センチにとどまっていることに残念さを隠せません。最低5センチは欲しかったというのが私の感想です。まだ始まったばかりですから、これからまた福祉用具専門相談員の声を吸い上げて改良していってもらえたらと思います。

車載用車椅子 Nツアラー


そしてもう一つ拝見したのが、Nツアラー。車載用の車椅子です。車載用を展示してあったのは日進さんのみでした。
調整機能はフットサポートのみですが、取り外しできるヘッドサポートや車椅子を固定するアンカーバー、シートベルトを通しやすいサイドガード、車載に耐える強度設計もされており、車載に必要な機能を備えた車椅子といえます。

車載のための強度
トヨタ車の簡易固定システム対応アンカーバー

介護タクシー、送迎サービスの方が1台、車に積み込む車椅子として、とてもいいのではないでしょうか。

ただ、家やデイサービス、施設などで長時間使っていて、そのまま車に乗り込むには、あと1歩。座り心地、調整機能などの視点も必要になってくると思います。とはいえ、事故に巻き込まれる福祉車両が増えている昨今、この車椅子で命を救われる方がいるかもしれません。

今後全てのメーカーに求められる車載用車椅子の安全性にトライしていく日進さんの姿勢に敬意を表したいと思います。

まとめ

日進さんは、福祉用具貸与事業者や移送サービスなど、現場で働く人たちの声を丁寧に拾ってくれる方向に進化を歩んでいるメーカーさんと感じました。



カワムラサイクル


カワムラさんのブースは、リクライニング車椅子一択。見ていって乗っていって〜! ということで、試乗してきました。

体がずり落ちないリクライニング KMD-R12


なんと、リクライニングを何度動かしても体がずり落ちていきません。逆にお尻〜腰が下に引きずられるような、ちょっと浮いてる? 不思議な感じがあります。まあ、この程度の違和感なら問題ないかとも思いますが、長時間利用に違和感がどう作用するかはまだ未知数といえます。

存在感がロボットちっく
体がずり落ちないリクライニング

そして、こちらのエレベーティングもクッションの上に突き出ないで、膝支点で動く仕様になっていました。

そして特別な説明はありませんでしたが、クッションやバックサポートに使用している布は縦横によって摩擦の強さが違うものを採用していて、滑り座りになりにくい工夫がされています。

それにしても、黒とグレーで作ると存在感ある。というかロボットのような無骨な存在感がある車椅子でした。標準的な車椅子の軽やかでスタイリッシュなイメージとはかけ離れている気がしなくもないリクライニングでした。

シンプルが売り!背ばりのみ BACKSシリーズ


いただいたチラシの裏にさらりと紹介されているBACKSシリーズ。標準車(フットサポート3段階調整)に背ばり調整機能をつけたもの。チラシにもありますが、まさに「ありそうでなかった」車椅子。実に素晴らしいところに目をつけたと思います。

シンプルさが活動を広げる

円背(猫背)があり、自分で少しは歩ける程度の方に車椅子を選定する時、背ばり調整機能だけが欲しい場合があります。
円背(猫背)の方には、背ばり調整は必須です。背ばり調整しないまま使うと、床ずれ(褥瘡)、円背(猫背)の進行、車椅子からの転落、コミュニケーション不全、そこからくる気持ちの落ち込み、認知症の進行など、様々な弊害が出る可能性があります。

ですから、背ばり調整は本当に大切な機能なのですが、しかし、これがシンプルな車椅子には本当になかったのです。そのため、背ばり調整機能が欲しいばかりにモジュールタイプを選定していましたが、必要ない機能は利用者さん、ご家族にとっては、重いだけ、めんどくさいだけになってしまいます。

特にご家族が車のトランクに積み込みたい、タクシーや公共の乗り物を利用して出かけたいなどのニーズがある場合には、シンプルな方が断然、使いやすいのです。
活動的な高齢者が増える時代に求められる車椅子とも言えるかもしれません。

これもドド〜ンと展示アピールして欲しかったのですが・・慎ましいのかもしれませんね。ブースのスタッフさんは、リクライニング1点推しでした。

まとめ

神戸らしい華奢でスタイリッシュなイメージをぜひキープして欲しいメーカーさん。カワムラサイクルさんがデザイン性にこだわったら、どんなリクライニング車椅子になるのだろう?
期待したいですね。




松永製作所


松永さんは、YouTube配信をご覧になれば一目瞭然ですがシーティング(姿勢の調整)にこだわっている大手メーカーさんです。今回のHCRでは、ネクストコアの改良版を展示していました。

弱点がなくなった⁉️ネクストコア2


この改良版の凄いところは、自社製品(ネクストコア)の弱点を正確に把握していて、弱点を潰す形での改良を施したことです。
ネクストコアの弱点は、ちょっとぐらつきが大きいことと、背バリ調整ベルトがへたってきてしまうことです。
ぐらつきが大きいと、車椅子を漕いだり押したりする力が車輪に伝わりにくいので、力がたくさん必要になります。
このぐらつきを小さくすることで、漕いだり押したりする時に軽い力で動くようになります。

背中のフレーム角度も微調整
シンプルな中にこだわりが満載


そして、背バリ調整ベルトは、先日レンタル品を卸の会社からお借りした時に、べろりとへたっていました。へたっている状態で私が座ると肩甲骨の下までの高さでバックサポートが終わってしまいますが、新品の状態で座ると、肩甲骨の真ん中くらいまでバックサポートがあります。
この肩甲骨にかかるか、かからないかで大きく座りごこちが異なるのです。
今回の改良では、フレーム角度を変えたことで、へたりにくいはすとおっしゃっていました。これについては、経年を待ちたいと思います。

1番感じて欲しい『座面の角度』


そして今回の改良の中で1番の注目点は、座面の角度です。
通常車椅子はお尻が落ち込んでいます。今回の車椅子はこの落ち込みを感じにくい角度(水平に近い角度)になっています。この微妙な角度の変化は、さすがシーティングに力を入れている松永製作所さん!と言いたくなる目の付け所です。

では座面角が水平に近づくことで何が良くなるのでしょうか?

①まずは多くの人に関係するのは、立ち上がりがしやすくなります。人が立ち上がる時には、体の重心を足の裏に持っていかなければなりません。しかし、お尻がどっかりと下に下がると体の重心移動が大仕事になり、それだけ立ち上がりにくくなるのです。
車椅子からの転落や滑り座りの心配がなくて、1人の時間に立ち座りをしたい方には、使いやすい車椅子といえます。

腕を使った作業がしやすくなります。最近は学習チェアなどで骨盤が立つように前下がりの座面設計の椅子が使われています。座面が後ろに落ち込んでいない分、骨盤が立ちやすく(後傾しにくく)調理や食事をしたり、車椅子を自走したりがしやすくなります。

意欲も前向きになります。姿勢は気持ちを変えます。骨盤が立ち背筋が伸びると、何かをやる気になるし、気持ちも前向きになります。まだまだ活動したい人におすすめです。車椅子気分にならない車椅子・・とまでは言い過ぎですが、患者な気分、やってもらう立場を脱却したい人、まだまだやりたいことがある人に座面の角度は重要なのかもしれない。
案外、この意欲的な気持ちを姿勢から作ることが、これからの車椅子には大切なのではないだろうか? 
今回の松永さんの展示車椅子を試乗してそう感じました。

④片麻痺の方などは、足漕ぎしやすいです。座面の角度が浅い分、腿の動きを邪魔しないので足を動かしやすくなります。ただ、お尻が前へずれやすくなるかもしれません。長所=短所にもなり得るのです。長所になるか短所になるかは、体格、筋力、体の使い方など、さまざまなバランスによって異なります。
ご興味ある方は試乗してみるといいと思います。

まとめ


松永製作所さんのブースを見て感じたのは、自社の製品について熟知して、どこまでも完璧主義の玄人路線を突き進むという姿勢でしょうか。「利用者さんのために福祉用具専門相談員は勉強して、うまく適合、調整してね」と。もちろん、少しの勉強で調整しやすいようにとの工夫も進んでいますが、「利用者さんに真っ直ぐ」の目線が向いているメーカーさんだと感じました。



今回のHCR③報告はこれで終了です。最後までご覧くださって、ありがとうございました。
次回もご期待いただけますと嬉しいです。

いいなと思ったら応援しよう!

車椅子安全利用コンシェルジュ 久内純子
よろしければサポートをお願いいたします。 車椅子ユーザーと家族、支援者が幸福な介護現場を実現するために、「車椅子事故ゼロ」を目指して啓もう活動をしています。 いただきましたサポートは、今後の活動費に使わせていただきます。あなたのサポートを頂けますと嬉しいです。