体に合わない車椅子って、こんな感じ?
私はこれまで、HOW TO の発信をしてきました。
背張り調整でこんな困りごとを解決できるとか、○○を解決するには△をするといいとか。
しかし、それはあくまで支援者目線での話でした。
何で車椅子を体に合わせるのか?
事故予防とか二次障害予防とか、と言う言葉でお伝えしてきました。それはもちろん大切ですが、私自身この言葉で語るときに身体感覚が伴っていないのが現実です。正直、車椅子から転落したこともないし、褥瘡もなったことがありません。見て聞いて、解決しなければならないと思いますが、その時に働いているのは極めて論理的な思考回路です。ですから、今回は、体に合わない車椅子を使う日常を身体感覚で想像してもらえたらと思います。
車椅子は、靴に似ています。皮膚より硬いものが体に長時間密着していること。そして、動きに伴って、摩擦等が発生することなど、多くの共通点を持っています。
体に合った車いすを使うのは、体に合った靴を履くのと同じ。逆に言えば、体に合わない車椅子を使うのは、足に合わない靴を履くのと同じなのです。
足に合わない靴を想像してみてください。
踵や指が靴擦れしたら、痛みでせっかくのデートも楽しめません。
ブカブカの靴を履いたら、一歩一歩足を前に出すのが大変ですよね。常に転ばないように注意しながら歩かなければなりません。そうしたら、スピードも出ないし、歩くことに意識を集中しなければならないので、とても他のことに気が回りません。
小さい靴の中で、指先をきゅっと丸め続けながら歩くと、爪がはがれてしまうかもしれません。そうして、痛みに耐えながら歩き続けると、おかしな姿勢で歩いたりして、腰や背中など別のところが痛くなったりします。
こんなふうに歩きにくかったり、どこか痛くなったりする靴は、デザインが気に入っていても自然に使う頻度が少なくなってきますよね。靴なら他に何足も持っているから、他の靴を履いて出かけます。しかし、それ1足しかなかったら・・と考えてください。車椅子ユーザーの多くは、1,2台の車椅子で生活していますから。
そうすると、だんだん外出そのものがおっくうになってしまうかもしれません。
合わない靴を履いて歩く苦痛が、頭の中に記憶されているからです。外出したとしても、必要最低限の用事を済ませたらすぐに帰って、靴から解放されたいと思うでしょう。おいしいごちそうも、足の痛みであまり味わえないかもしれません。靴なら、さり気なくテーブルの下で脱いでいるかもしれませんね。しかし、車椅子は椅子に座りなおせない方は、ずっと座ったままです。誰かとお話していても、意識の半分以上が痛みに向いているかもしれません。
でも、足に合った靴を履いていると、一日足の事を気にしないで活動できますよね。好きだけ歩いて、仕事したり、ショッピングを楽しんだり、勉強をしたりおいしいものを食べたり、お話をしたり。靴の事なんか忘れて何かを夢中でしている。そしてデザインも気に入っている。それが理想の靴だと思います。
車椅子も同じだと考えています。車椅子の存在を忘れることは無理だとしても、お尻が痛いとか、車椅子から落ちそうで怖いからやめておこうとか、そんなことを考えないでやりたいことができる。そしてデザインも気に入っている。それが理想の車椅子だと思います。
体に合わない車椅子を使うのは、足に合わない靴を履いて一日中、足が痛い、早く脱ぎたいと思いながら、楽しめない時間を過ごしているようなものです。時には、それが原因で入院するさえあります。だから、体に合った車椅子が必要なのです。
ネットで安く販売されてもいますが、車椅子は自分一人で選んだり調整したりすることは困難です。車椅子は通常、自宅や病院で福祉用具専門相談員や理学療法士、作業療法士と相談しながら選びます。調整は、通常は福祉用具専門相談員がします。ですから、福祉用具専門相談員や理学療法士、作業療法士には、車椅子のリスクと可能性、調整の仕方を知って実際に問題解決をして欲しいのです。
事業所の紹介は、ほとんどの場合、自宅ならケアマネジャー、病院なら理学療法士がされていると思います。ですから、どんな問題解決をどの事業所ができるかを知って欲しいのです。
車椅子を使っている場面を一番見ているのは、家族や介護職の方です。介助をしているのも、家族や介護職の方です。ですから、危険な使い方をしていないか、車椅子で解決すべき痛みや不便はないかを見る目を持ってほしいのです。介助のしにくさや事故の遭遇など、車椅子があっていない影響を一番受けるのが家族と介護職の方だからです。
あなたが車椅子ユーザーなら、自分の人生を続けてください。車椅子になったら人生終わり。そんな言葉も何度か聞きました。でも、現実には車椅子を使っている今もあなたの人生です。車椅子だからと手放したものの中には、本当は手放す必要のないものがいくつもあると思います。口にするのをためらった希望の中には、口にしていいものがいくつもあると思います。手伝ってもらうべきことは、手を借りて。あなたは自分ができる方法で、誰かの役に立つこともできる。多くの車椅子ユーザーに支えられてきた私は、そう考えます。そして、あなたが幸福であることが、一番大切なのです。なぜなら
あなたが幸福であることが、まわりの人を幸福にするのです。
車椅子ユーザーが、車椅子のことを忘れて人生を楽しめる時間を持てるように。
これからも、情報発信をしてきます。