安心な介助 の意味
私は車椅子介助についての講師をしています。中でも車椅子パートナー育成セミナーは、介助の仕方だけでなく、幸福マインドや車椅子ユーザーからの話も聞けるなど盛りだくさんの内容で好評をいただいていました。
その中で、実際に高さ5センチ程度の段差を上り下りするワークがあります。介助するのはもちろん、車椅子に乗ってユーザーの立場も体験してもらいます。
このワークについて、プロの介護職の人も貴重な発見や気づきを得たというアンケート結果をいただいています。
1つには、乗っている人はこんなに怖いものなのか、ということです。乗っている人には足元の段差の位置が見えませんし、介助者のタイミングがわかりません。多くの介護職は、慣れてくると細かいタイミングの声掛けをしなくなります。普段、車椅子に座って介助されることのない介護職にとって、限られた視界で自分の体が前後に揺さぶられる体験は怖かったのだと思います。
そして、もう1つは、「腕の力で行う介助」と、「体幹の力を使う介助」ではユーザーの安定感や安心感が全く違うということです。その介護職の方は、車椅子パートナーのワークをするまで自分の介助の仕方に疑問を持ったことはなかったそうです。そして、「腕の力で行う介助」と「体幹の力を使う介助」では、乗り心地が全然違う! とあまりの違いに驚いていました。
車椅子介助とは、車椅子を目的地までただ移動させればいいというものではありません。ユーザーを大切に思っているなら、プロフェッショナルとして介助するなら、安全であることは最低限として、安心して移動できることが大切です。
安心はなぜ必要なのでしょうか?
安心は次の行動に繋がります。移動の間不安を抱えていたら、緊張し、体に過度な力が入ります。移乗方法など、過度の緊張が何度も繰り返されることが拘縮の原因になることが分かってきています。拘縮まではならなくても、緊張した体は動きが悪くなります。
そして、次にまた同じ体験をしたいとは思わなくなります。
つまり、外出や移動に対して消極的になります。理由をはっきり認識しないまでも、「外出すると疲れる」など、あまり外出したくないと思うようになってしまいます。
ユーザーが笑顔でいるから大丈夫。おしゃべりしながら介助しているから、当てはまらないと思っていませんか?
私は歯医者が怖いです。待合室から体にものすごい力が入っています。10分待つと、すでに疲れています。それでも、私は受付の人や歯科医とは笑顔で話します。体は緊張したまま。人は、意識と無意識とでは正反対のことができるのです。無意識は怖いと思い、体を緊張させます。意識は好意的にふるまおうとし、治療に協力的でもあります。怖いのに、治療のために口を開けたりします。大丈夫でもないのに、「大丈夫ですか」と聞かれたら限界までYESのサインを出します。人は社会的な生き物です。笑顔だから安心していると思い込むのは、違うかもしれません。
「体幹を使った介助」の仕方を作りました。まずは段差の上がり方です。一度ご自身の介助方法を見直す機会にしていただけたらと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=35yC6U87z1o
また、介助をする上で知っておいて欲しい「車椅子の危険な使い方」についてのセミナーも開催します。事故を起こす前に、よろしければご参加ください。