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視野を変える

困るけれど、今のままがいい

福祉用具の仕事をしていると、提案する場面が何度もあります。
体の状態が変わったことから、車椅子の機能を変更しなければならなかったり、ベッドから車椅子への移乗の方法を変えなければならなかったり。
しかし、提案から実際の導入まで1年以上の時間がかかることや、試してはみたものの以前の方法に戻ってしまうことがあります。

つまり、「困るけど、今のままがいい」と判断してしまうのです。

多くの人は新しいことや変化を嫌います。というより、習慣になっていることから外れることを嫌います。人の脳は、現状維持を望みます。いつも行っていることは、いちいち考えたり判断したりしなくていいので、脳がエネルギーを使わなくていいのです。ですから、私たちは慣れたこと、これまでの習慣が大好きです。

ブラック企業に勤めている人が、「このまま続けると命を落とすかもしれない」と思いながらも、辞められずに勤め続けるのも同じです。どうなるか分からない未知の状態よりも、よく知っている今まで通り悪い状態の方を、脳は選ぶのです。

この脳のコンフォートゾーンを抜け出すには、一大決心をし、新しい方法が習慣化するまで根気強く繰り返す必要があります。人が一大決心をするのは、大きなショックを受けた時。傷ついたり、誰かを傷つけたり。しかし、できれば、そうなる前に新しい方法にシフトしたいものです。

介護現場で、もっと早く使っていれば・・そう思うのが、在宅での手すりです。「転倒したから付けて欲しい」という相談が、多く見られます。あるいは、足腰は弱っていたけれど、転倒して骨折。退院準備のために介護認定を受けたという方もいます。もっと前に手すりを導入していれば、転ばなかったかもしれない。私はいつもそう思うのです。

車椅子の場合、移乗方法や姿勢の変化がポイントになることが多いです。移乗の時に転倒・転落したり、介助者が怪我をしたり。そうなってからご相談いただく場合があります。あるいは、提案し続けている最中に不幸な事故が起こってしまうことがあります。しかし、可能ならこうなる前に新しい車椅子、新しい習慣にシフトしたいものです。

その時に、力になってくれるのが理学療法士や作業療法士です。在宅の場合は訪問リハビリテーションです。一緒に新しい福祉用具や習慣の必要性を説いてくれるのも理学療法士や作業療法士です。そして毎週、マンツーマンで新しい車椅子を使ったり、新しい移乗方法を練習したり、根気強く習慣化の手伝いをしてくれます。

新しい習慣に移行する際は、誰でも不安はあります。違和感もあります。慣れるまでは、今までの方がいいのでは? と思うかもしれません。それも自然なことです。

しかし、もう少し視野を広げると、もっと大きな意味で車椅子ユーザーや家族のこれまでの生活を続けるために新しい福祉用具、新しい習慣を導入することを忘れないで欲しい。いつもそう思うのです。

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車椅子安全利用コンシェルジュ 久内純子
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