車椅子の座り方・・Vol,1
車椅子に長時間座っているのは、実は楽なことではありません。
その理由の一つは、車椅子の座面の構造にあります。
ほとんどの車椅子の座面は、左右をビス止めされた一枚布でできています。これをスリングシートと言います。スリングシートは、たとえばキャンプで使う椅子や、ディレクターズチェアと呼ばれる映画監督が使う椅子で使われています。持ち運んで使う椅子に使われています。
小さく折り畳めるのがスリングシートの利点ですが、座り心地はあまりよくありません。なぜなら、とても不安定だからです。スリングシートの一番の問題点は、左右に対して真ん中に座らなかった場合の骨盤の傾きにあります。
真ん中に座れなかった場合、骨盤は図の右側のように傾きます。スリングシートは、同じ力が2点にかかった場合、シートの中心に近い方がより沈み込む構造になっているからです。その結果、骨盤は本人の右側が沈み、そちらに体幹の重心が偏ります。右の座骨に圧力が集中し、褥瘡リスクが高くなります。
それに加えて骨盤の傾きにより背骨も傾き、それを修正しようと反対への傾きが加わると側弯の状態が生まれます。傾いた状態でバランスを取ろうとするので、筋力を使いますから、腰痛や肩こりなどの痛み、疲れやすさを感じる方もいます。この状態を続けると、側弯が進む可能性もあります。
しかし、人間なかなか真ん中に座るのはできることではありません。
これを改善するには、1つには座面の(左右に対して)真ん中に、お尻を奥まで入れて座ることです。(お尻を奥まで入れて座ることについては、前に記事を書きましたのでそちらをご参考になさってください。)そして、もう1つの対策としては、座板を使うことです。
ほとんどの車椅子はスリングシートですが、中には板が付いている車椅子もあります。車椅子ではまれな構造ですが、私たちが座る椅子のほとんどがこの構造になっています。しっかりした木や金属の板があり、その上にクッション性のあるものが乗っている。これが通常の椅子です。安定感があり、そのため体幹を動かしやすい利点があります。
車椅子でも同じです。スリングシートの車椅子の場合は、クッションの下に板を敷くことで同じ構造を作ることができます。板があると、(左右に対して)真ん中に座れなくても、前述したような不具合は解決できます。(図の左側)
一方で、座板を使用すると褥瘡ができやすかったり、転落したり、座面が高くなるのでバランスを再調整する必要が発生するなどのリスクもあります。
座板を使用する場合は、転落防止や除圧の問題が発生しますので専門知識を持った福祉用具専門相談員や理学療法士、作業療法士に相談してください。
そして、長時間車椅子に座る方は、定期的に除圧をして褥瘡を予防してください。一日中、同じ姿勢でいると、関節が固まってきてしまいます。これが続くと、関節の動く範囲が狭くなり、中にはほとんど動かなくなる方もいます。これを拘縮と言います。
寝たきりで足や腕が動かなくなる、麻痺のある手や腕が拘縮する、というのはイメージが付きやすいと思います。車椅子を毎日、長時間使っている方も拘縮リスクが高い方です。
時々、腕を回したり、体幹をひねったり、足を延ばしたり、立ち上がるなどして関節を動かしてください。あるいは、寝る前のストレッチもお勧めします。体は使っていない部分こそ、意識的なメンテナンスが必要です。特に股関節や膝関節は、意識して伸ばさないと伸びなくなってきます。寝たきりじゃないから大丈夫と甘く考えずに、日々対策をすることをお勧めします。
拘縮が心配な方、興味ある方は今月、ZOOMによる無料セミナーを予定しています。
支援者、車椅子ユーザー、家族の方に参考になる内容になっていますので、ご都合の合う方はぜひご参加ください。