車椅子のベルト問題 Vol.2
前回は、障害と介護保険の基本的な考え方の違いをお伝えしましたが、そもそも障害者手帳と介護保険とでは車椅子の決め方が違います。
ベルト装着の決め方
障害者手帳で車椅子を支給されるためには、多くの場合、判定を受けます。本人と相談しながら、「この人にはこの機能の車椅子と付属品が必要です」と医師が意見書を書きます。その意見書の中に姿勢保持のためのベルトも含まれています。
介護保険でレンタルする場合は、本人と家族、福祉用具専門相談員、ケアマネジャーなどでアセスメントをしながらカタログを見たり、車椅子に試乗するなどして決めていきます。そして、ほとんどのカタログには姿勢保持のためのベルトは掲載されていませんし、車椅子導入の時に「姿勢を保つためにベルトを試しませんか」と積極的に提案することは、ほとんどありません。私がベルトを導入したケースも、お客さんから「怖い」とか「どうしても○○をしたい」とのご相談を頂いて、初めてご提案するかたちでした。
つまり、この導入の違いによって何が起こっているかと言うと・・・
事故リスクを考える
障害者手帳だとベルトが支給される方と同じ程度の姿勢保持力の方でも、介護保険ではベルトなしで車椅子を使っている・・・ということです。これは、できることが少なくなるということもありますが、安全性という意味でも高リスクになることを意味します。
私は車椅子ユーザーが街中で困った時に手助けできる人(車椅子パートナー)を育てています。そのセミナーの中で、必ずこのリスクをお伝えしています。「障害者手帳をお持ちの方は、体幹が不安定な方はベルトをしています。しかし介護保険で車椅子を使っている方は、同じくらい体幹が不安定でもベルトをつけないで外出しています。だから、お手伝いする時には一層、転落事故に気を付けてください」と。
そして、転落リスクがある場面をでは「アームサポートにつかまってください」などの声掛けを推奨しています。
しかも、介護保険の場合は体に合わない車椅子を使っているケースが多くみられます。以前の記事「フットサポートでこんなに違うの!?」でも書きましたが、体に合わない車椅子も事故リスクを高めます。
体に合わない車椅子リスク
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ベルトなしのリスク
つまり、二重に転落リスクが高い状態で使っている方がいるのです。
ベルトを使うための課題
では、とりあえずベルトを付ければ安全なのでしょうか。
残念ながら、ベルトは付けていればいいというものではありません。以前の記事「シートベルトで命を失わないために」でも書きましたが、ベルトは体の正しい位置に付けなければなりません。
特に転落しそうなほど体が傾いた時には、ベルトに身体がぶら下がるような力がかかることが想定されます。骨のない腹部にその力がかかると、事故時のシートベルトほどの衝撃はなくても、やはり内臓圧迫などの弊害があります。ベルトが必要な方の多くは、一度傾くと自力で姿勢を立て直せません。そのため誰かが気づくまでその姿勢で、同じ腹部に圧がかかり続けることになります。ですからベルトは、正しい位置で使う必要があるのです。
そして、ベルトを正しい位置につけるためには、体に合った車椅子に座ることが大前提となります。身長150cm程度の方が、座面の奥行き40センチの標準的な車椅子に座ると、お尻が奥まで届きません。お尻の奥に空間ができるか、骨盤が寝てしまうか、その両方か。そうすると骨盤に正しくベルトをする事自体が困難になるからです。
車椅子のベルトは正しく使えば、安全性や自由度の確保にとても有効なものです。しかし介護保険をお使いの多くの方の場合、それ以前に体に合った車椅子に座るという課題をクリアする必要があるのです。
体に合った車椅子を利用するためには、シーティングエンジニアの資格取得者、あるいはシーティングのできる福祉用具専門相談員のいる福祉用具貸与事業所、または理学療法士、作業療法士にご相談ください。
また、今の車椅子が体に合っているか知りたい方は、写真やZOOMなどで車椅子個別診断も承っていますので下記までご相談ください。
wonder.piece2017@gmail.com
車椅子安全利用コンシェルジュ 久内純子