コロナ迷宮
昨年の9月、会社を設立しました。車椅子で当たり前に外出できる社会を作りたくて、「車椅子パートナー」育成セミナーをメイン事業と位置付けました。
私がこれを始めたきっかけは、車椅子の営業をしていた時に”車椅子ユーザーの9割が必要最低限の外出しかできていない”と知ったことです。そして、日常的に会う人が家族と支援者に限られる生活を送るうちに、「自分は誰からも必要とされていない」「迷惑をかけてばかりで、生きていて申し訳ない」というマインドになることに気づいたからです。
ん~、閉じ込められるなんて、私は無理!
それが私の感想でした。私は、閉所恐怖症の狭所恐怖症なのです。図書館の本棚と本棚の間の通路も、両端に人がいると苦しくなって移動するくらい。だから、歳をとって車椅子になっても、介護が必要になっても、カフェでコーヒーを飲みたいし、おいしいものも食べに行きたい。ゆるゆると仕事をしたいし、誰かの役に立って「ありがとう」とも言われたい。介護に携わる仕事をするうちに、そんな老後を送りたいと思うようになりました。車椅子パートナーは、慈善活動ではなく、そんな思いから始まった事業です。
具体的には「車椅子介助の仕方×幸福マインド」を通して ①通りすがりの困っている車椅子ユーザーをお手伝いできる人と、②何に困っていて、どうして欲しいか、「助けて」を伝えられる車椅子ユーザーの育成をしていました。つまり、その場にいる人たちが助け合い、手を貸し合うことで外出しやすい社会を作るという取り組みです。
車椅子パートナー育成セミナーには、半年間で60人あまりの方が参加してくださいました。オリンピック・パラリンピックのボランティアさんたちも受講してくださいました。受講生からリクエストをいただき、屋外での介助体験がある上級編のプログラムも作りました。店舗や商店街向けの研修など、車椅子ユーザーが日常的に行く場所を増やすための事業展開を始めよう!と事業計画を立てた、まさにその時です。
新型コロナウィルスの流行でセミナーを延期、それ以降はすべて中止になりました。緊急事態宣言中、多くの人が外出できないストレスで苦しんでいました。私のまわりの車椅子ユーザーさんからは、「いつもと変わらない生活をしています」という声が聞こえてきます。私も週に1、2回しか外出しなくなりました。あれほど閉じ込められるのは無理!と思っていたのに、ストレスなく・・どころか、快適に家時間を過ごしていました。
緊急事態宣言が解除され、多くの店と会社が営業を始めています。人々は「待ってました!」とばかりに街に出て、買い物や外食を楽しんでいます。
しかし、私はまだ家にいます。経済的に問題がなければ、ずっとこのまま過ごしていたいくらい快適です。そして、車椅子パートナー事業も引きこもり中です。
将来の自分にも、今とこれからの社会にも必要なのはわかっているのに、一歩が踏み出せていないのです。セミナー自体は、オンラインでできるでしょう。実技は出来なくても、動画を見ながら介助できるように工夫することは可能です。しかし、核心部分・・・車椅子パートナーは人と人との接触を推奨する活動です。コロナ禍の今、果たして求められているのだろうか? もし、お手伝いをしたりされたりすることで、コロナに感染したら? どのようにお伝えし、実行してもらえば安全に行えるだろうか? この迷宮から抜け出せずにいます。
閉じ込められるのが嫌いだから始めた事業。そのはずなのに迷宮入りのまま、家で過ごしています。新型コロナウィルスは、私の知らない私を引き出し、事業の根底を全否定しました。それでも、家族と支援者だけの世界に閉じ込められない、明るい老後を目指して。withコロナ時代の車椅子パートナーは、迷宮の中でうずうず模索しています。