ありがちな恋愛

人は悲しいことが起きると好きだった音楽さえも受け入れなくなるのかと思った。

会いにこないでという声に聞こえないふりして夜行バスに乗り込んだ。夜行バス、東京まで2500円。2500円の値段の安さに負けない質のいい乗客だった。隣の席の人のiPhoneのライトの明るさに照らされながら朝を迎えた。

きみのバイトが終わる頃に電話をかけた、でなかった。メッセージには乗ったの?以降返事が来ていない。
ターミナル駅で電車を待っていたら電話が来た。これからなにするの?と
きみの駅の近くでぶらぶらする、とだけ言った。優しいきみのことだから最寄りまで行けば絶対に会えると思っていた。会わないと言っていても会ってくれるだろうと踏んでいた、それは当たりだった。
手を繋ごうとしたら振り解かれた。明確な拒絶に何度も泣きそうになりながら同じことをした。
これが人生で最後になるのに、きみの爪の形まで指の先まで覚えていたかったのに あんなに近い距離にいたのに触れることもできない。そんなことさえもできないのが悲しくなる。

モーニングを食べて、ちょっと高いんだよなって言った魚の定食を食べるように促して
すこし笑ってくれて、かわいいなあと思った。

抱きしめて、突き放されなかったとき
このまま時が止まればいいって本気で思った。
一瞬が永遠になる、あの日は一日だったのに
何回も同じ日をしたみたいにジェットコースターみたいに些細なことで喜んで些細なことで深く傷ついた。

もう半年経ったのか。下書きを見ながら思い出した。
わたしがあげたキーケースはこの日に落としたらしい。わたしに優しくつたえているだけで捨ててしまったのかもしれないけど。
でも多分本当に落としてしまったんだと思う。あの日いろんな場所に行った。楽しかったけど、辛い気持ちの方が思い出になってしまっている。
夜勤明けで眠たいのに会ってもらえる時点で幸せなのにな、贅沢な悩みだな。

今のわたしはもう返信もしてもらえない、わたしはたまにLINEをたくさん送って送信取り消し、夜眠れなくて泣いたり肌が荒れたりもしながら、しぶとく生きている。
思い出のかけらはいろんな場所に散りばめられていて、心が痛んだりたまにどうしようもなく苦しくなりながらも一緒に泊まったホテルでベッドの上で食べたコンビニごはんや、場所を間違えて一緒に走って見に行った映画、君のパソコンで一緒に観た好きだという映画、作ってくれたプレイリスト、あの日褒めてくれた服。もう2度と戻らない日々を思い出しながら、少しずつ忘れてしまうその日々を何度も何度も擦り切れるくらい頭の中で再生して、なんなら明日会えるんじゃないかなとか今までのことが夢だったんじゃないかななんて想像しながら幸せな気持ちになって眠る。

自分で気持ち悪いなあとか、人には失恋いいじゃん!新しい人と出会うチャンスだよなんて耳障りのいい言葉をはきながら、わたしはもうだれとも出会わなくていいし新しい恋とか誰かを好きになるとか
もういらないし必要ないんだなって顔を思い出しながら考える。
誰かとどうにかなりたいわけじゃなくて、人のことを好きになってもう離れたり辛くなったりしたくない。

だれでもいいけど優しそうなことばをかけてくれそうだから連絡してくる人とか、わたしじゃなくてもいいけどさみしいから連絡してくる人とか
もう全部どうでもよくなって冷たくしてしまったり、私を大事にしてくれないなと思う人と距離を置いたり。
なんでもっとはやくこうしなかったんだろうって思うことばっかり。
今は仕事を頑張って、楽しくやって働いて
もう1人で生きていきていけたらいいという気持ちで生活を続けている。
わたしは人を見る目だけ自信があったけど見る目なかったみたいだし。

音楽も聴けるようになった、また違う音楽だけど。
けろっと笑って生活できると思ったけど案外そうでもないみたいで、今でも君からもらった手紙を読んでどうしようもない気持ちになって泣いてしまう。今度が来なかったけど、京都はすごく良かったよ。川床にも行きたいし、今月はお祭りもあって賑やかな雰囲気。
もう忘れないとな、いつまでもじめじめしてるの可愛くないから。

自分勝手で最低で可愛くないわたしをたおして、
優しくて落ちついて、がんばりやさんのわたしに生まれ変わりたい。いつか出会えたときのために美しいわたしでいたい。
美しいものを販売するわたしは美しい人でいなければならない。
しあわせになるために頑張らなければ。

あなたを捨てて選んだ人はわたしを捨てて、それで初めてわたしはなにもかも間違っていたことに気付いた。

自分が愚かで情けない、どうにもならない。
大好きだった人はもうどこにもいない。