あとすこし
夏の暑さが顔を出した頃に出会った君を思う。君に出会ってからわたしはすごくわたしを大切にするようになった。
今まで私の周りにいた「男の人」たちは皆優しくて面白くてちょっと不器用なだけなんだと思っていたけど。今まで年上の男の人が周りに多かったから君は若いからこうなんだよ、とよくいわれてきた。
でも君は何人かいた男の人よりよっぽど大人だった。
わたしのことをいちばんしあわせになって欲しい人だと言ってくれた。ずっと応援してる、とも。もっとはやく君に出会えたらよかった。
一緒にいることが当たり前すぎて嘘みたいなことだけど一緒にいる前の生活を、あのきもちを少し遠くさせてしまった。
きみにはわたしのはじめてをなにもあげられない、だからおわりをあげたいと思った。
ディズニーも鎌倉もUSJも東京も横浜もキスも、わたしのはじめては他の何人かの人で埋め尽くされていて、それを欲しがる君をみて、なんてわたしは汚いんだろうと思ってしまった。キラキラした素敵な思い出もあるけど少しも思い出したくない汚いこともある。
キラキラした思い出がなければ汚い思い出もない君が心底羨ましい。お客様が誰とも付き合ったり好きになってもらったりしたことがないことがなやみと言ってくださったときと同じ気持ちになった。
これから出会う新しいときめきと、大好きな人にいろんなはじめてをプレゼントできるのが羨ましくて、自分と比べてしまう。
そのときは私もこの人しかいない、みたいなきもちとか多少は持っていたと思うけど多少くらいであげるんじゃなかった。わたしのだいじな時間を。
夏が本格的に暑さを感じさせ始めたころ、君と離れようと思った。君のことが特別に好きになったから。でもだめだった。夏はまだ逝かない。
君の求める人がわたしではないことはもうわかっている、コロナ禍じゃければきっと会うことも知り合うこともなかったんだろうな。
君が何年も好きだった女の子はそんなに魅力的だったのかな、求めていた人以上だと思うけど思われていた顔も知らない女の子のことを、私は一生好きになれないと思う。その女の子も、まさか顔も名前も知らない女の子に一生好きになれないと思うとか言われてるとは全く思ってないだろうな。
君が嫌がることをやめた、君が好きな音楽を聴いた。離れたらずっとこの曲が君を思い出すテーマソングになるんだろうなと思いながら。
夏が知らない間に終わったころ、あとすこし。