【西武三軍】公式記録に残らない舞台。
三軍の概要
今シーズンから本格始動した埼玉西武ライオンズ三軍。昨年までは一軍の監督経験もある田邉徳雄氏が三軍監督を務めていたが、「三軍」として戦う試合は1試合もなく「ファーム」としてBCリーグや社会人、大学生と戦っていた。そして今季。新たに鬼﨑裕司三軍野手コーチ、荒川雄太三軍バッテリーコーチが就任し、イースタン・リーグ以外の試合全てを三軍として戦うことに。一軍二軍と並行してもう1つ新しいチームが誕生したのである。
独自で二軍に人数制限を設け、支配下・育成関係なく結果や調子などで二軍と三軍の行き来を一軍昇格抹消と同じように行う。昨年よりも高い水準での競争を行わせることでチーム全体の底上げを図った。選手の人数が昨年と比較してかなり増えたわけではないため、三軍は月に10試合程度。BCリーグ8球団とホーム&アウェーで試合を行い、大学生や社会人とも戦っている。
良い点悪い点
その1 若手選手の出場機会の増加
まず1つ目のメリットは三軍元来の目的「若手選手の出場機会の増加」である。昨年二軍で齊藤誠人、中熊大智がほぼキャッチャーを務めており、育成ルーキー古市尊の出番がかなり絞られていた。また飽和する外野では西川愛也、長谷川信哉、高木渉などがスタメンを張っておりコドラド、ジョセフらの出番がなかった。加えてイースタン・リーグでは1試合に出場できる育成選手の人数が5人までと限られており、万全の状態でも出れない選手が多く存在。存分なプレーをすることが出来なかった。先述の通り、高卒ルーキーや課題が多い選手をイースタン・リーグを戦う二軍で使ってしまうと一軍を狙う選手たちの出場機会が減ってしまう。そこで作られたのが三軍である。三軍があればそんなことを気にせずにいくらでも起用することが出来る。高卒ルーキー山田陽翔が中7日で登板、二軍なら優先順位が下がってしまう伊藤翔、三浦大輝、出井敏博ら育成中継ぎが連投で大きなアピールが出来るなどその効果は如実である。逆に二軍は一軍を目指す選手のみになるため、1.5軍のようなスタメンが連日続くことになるのである。今年のイースタン・リーグでの快進撃は二軍三軍完全分離化の影響が大きいだろう。
その2 挑戦と錯誤の舞台
球団公式に載っているスコアを見ると三軍はエラーの数が多い。1試合で5つのエラーが生まれることも日常茶飯事である。しかしこれには深い理由があった。それは「本職とは違うポジションに挑戦する野手」の存在である。
ファーストコドラド
4月の早い段階から外野手登録のコドラドがファーストでスタメン。内野手の人数が足りない三軍のために挑戦的に起用されている。身長は高いものの身体は硬くファーストとしてはまだまだだが、投内連携などでは光るプレーを見せている。ファーストのため捕球も必要不可欠なポジションだが、他の内野手の思いやりのある送球などもあり少しずつ上達している。
セカンドジョセフ
コドラドと一二塁間を形成するのが同じく外野手登録育成選手ジョセフである。俊足が売りの選手であるが、川野涼多しか二遊間要員がいなかった時代からセカンドそしてサードも務めた。セカンドでは幾多の併殺プレーに参加し、エラーをした際は悔しがる場面も。サードでは1試合で2度頭上を越えるライナーをジャンピングキャッチするなど自分の可能性を広げた。
サード捕手陣
6月に入り今度はサードが足らず。そこで起用されたのが野田海人(6/28)だった。続けて齊藤誠人(7/2)、是澤涼輔(7/16)も挑戦し、現状三軍の捕手全員がサードのポジションを経験した。
挑戦なのか、ただの人数調整なのか。その真意がどちらにあるかと聞かれたら後者な気しかしないが、その分三軍では珍しいものを見ることが出来ている。ただ、その分エラーや守備力には目を瞑らないといけない。エラーやフィルダースチョイスなどでピンチを作って三軍の投手が勢いを止められずビックイニングにされることも多い。守備の時間ベンチから大声と大きなジェスチャーで慣れない選手たちに分かりやすく指示を出す鬼﨑コーチには頭が上がらない。
その3 選手が少ない・・・
優先順位はもちろん二軍。その枠から溢れ出た選手が三軍として試合を戦う。現状の怪我人(岡田、中熊、渡部)の人数ですら三軍の控え野手は1人〜2人しかいない。そのため守備の最中はベンチに人がほぼおらず鬼﨑コーチの声だけがこだまする。イニング間キャッチボールも外野はブルペンから投手が出てきて行い、投手のベンチ前キャッチボールは荒川コーチ(BC兼任)が務めることも。投手事情も火の車で現状三軍先発ローテがへレラ、上間、山田のみとなっている。中継ぎの人数も少なくGWでの試合では3連投をする投手も現れ、昨年の投手不足(わけが違うが)を上回る中継ぎ2人のみの試合も存在した。また試合補助員がいないためリハビリ中の羽田、黒田、張、赤上、渡部、中熊らがボールボーイを務めている。水上、渡邉、赤上レベルの選手が登板予定がないにもかかわらずボールボーイとして横須賀まで行かされたことも。これ以上怪我人は増やせまい、試合成立のために・・・と自分の身体があげる悲鳴に聞こえないフリをして戦っているように思える選手も実際に存在する(足を引きずりながらプレーしていることも)。多くの選手に出場機会があるのはいいことだが、もし勝敗を意識して戦うならば、もう少し人数が必要かもしれない。
その4 常時監督不在のチーム
三軍は監督がいない。二軍が試合がない日は西口二軍監督がベンチ入りするが、並行して行われる試合は小関・大島二軍打撃コーチどちらかが監督代行を務める。加えて4人いるファーム投手コーチ陣から週変わりで1人派遣され、三軍首脳陣である鬼﨑・荒川コーチを加えた4人で戦うのがオーソドックスになっている。現状ほとんどの試合が監督代行による試合でスコアブックにも「代行」という表記がある。ただこれは誰の「代」行なんだ。もちろん二軍三軍両選手を同じコーチが見ることが出来ているのはとても素晴らしいことだし、昇格抹消の比較も安易だろう。しかし首脳陣も人数が少ないため監督代行が三塁コーチャーを務めたり、攻撃中、ベンチやネクストの選手に声をかけることが出来ない。二軍戦がない日、他の二軍首脳陣はトレセンで指導している中で西口監督だけ休みなく新潟、長野まで車を運転して行ったときもあった。また鬼﨑コーチは「野手コーチ」という肩書きだが現役時代ほぼ外野はやっていない。外野の守備を打撃コーチである監督代行2人が教える日々である。未来ある若獅子を育てるためにもあと2人くらい三軍専属の首脳陣が欲しいところである。
その5 実戦の少なさ
イースタン・リーグを戦う二軍は年間140試合ほどの試合が組まれ基本的に週6のペースで試合をこなしていく。しかし、三軍は前述の通り人数が少ない。また限られた遠征費や試合を行う球場、相手の確保など色々な問題にも直面する。そのため三軍は週2のペース(週0の場合もあり)でしか試合が組めず選手たちがなかなか続く実戦の中で何かを掴むことが出来ない(比較として…巨人三軍は週3〜4ペース。多い週は5試合を組まれることも)。狭いトレーニングセンターで実戦形式のシート打撃が行われていることもあるが、それだけで掴めないものはある。「あれ?先週の2試合調子良かったのに、今週になったら打てなくなってる。。。」は日常茶飯事であり、連続して試合がない分三軍の選手たちの成績の中でピンとくるものが少なくなってしまう。
その6 NPBとの差をいかに埋めるか
二軍三軍を分けたことはいつでもいい方向に向かうとは限らない。例えば、三軍選手は対戦相手がほとんどBCリーグや社会人になるため、対戦相手としてのレベルが下がる。逆にいえばこの場所で満足いかない成績を残しているようでは一軍ましては二軍昇格は夢のまた夢ともいえる。このレベルで満足することなくさらに上のステージレベルで戦うことが強いられるのである。7月現在多くの選手が二軍に昇格したが、結果を残せたのはベルーナドーム開催でホームランを打った川野涼多のみともいえる。多くの選手が二軍の壁にぶつかり、またこの場所に戻ってきてしまう。何が足りないのか、三軍になくて二軍にあるものは何なのか。自分で考えることが必要である。その手助けの一環として今年から始まったのが若手選手の一軍練習参加である。一軍と二軍が歩いていける距離にあるという地の利を使ったもので、交流戦期間中に野田、野村、古川のルーキー3人が経験した。
三軍で輝く選手たち
ファイル1 #38 野田海人
強肩が光る高卒キャッチャー。4月の二軍戦では侍ジャパンの左エースDeNA今永昇太からヒットを放ち、與座海人を無失点に抑える好リードを見せた。5月から三軍に常時帯同して経験を積んでいる。誰にも負けない勝負強さを武器に、6月13日のENEOS戦ではプロ初ホームランを放った。6月28日の試合ではプロ初のサードの守備につき、好プレーを連発。自分の可能性を広げた。
ファイル2 #118 野村和輝
輝き目立つ03line(他滝澤、羽田、黒田、菅井)最後のダークホース。初戦から今日まで三軍に帯同し、少ない内野手として実戦を積む。4月4日のハナマウイ戦ではプロ初のセカンドの守備にもついた。基本的にはサードを務めスコア上送球エラーは目立つものの、ファーストコドラドということを加味するとそんなに気にしなくてもいいと思える。彼の魅力はなんと言ってもパンチ力。逆方向右中間を破る当たりはグングン勢いを増していく。4月18日のBC埼玉戦ではプロ初ホームランも放ち存在感を見せた。一軍も定まらないサードのポジション。彼が埋める日もそう遠くないかもしれない。
ファイル3 #33 古川雄大
走攻守三拍子揃ったユーティリティ性が売りの高卒ルーキー。常時三軍に帯同し、プロレベルのボールに目を慣らしている。4月19日のBC茨城戦ではプロ初ホームランを放ち、その後の打席でもこの日2本目となるアーチを見せた。相手のミスにはとことん漬け込み「走魂」を象徴するような走塁を披露。守備でもライトからレーザービームでランナーを刺した。
三軍の意地!印象的な試合たち
4月19日・CAR3219フィールド
AP 040|030|002 9
L 120|131|20× 10
昨年のBCリーグ南関東地区制覇の茨城アストロプラネッツを迎えての一戦。初回仲三河優太の押し出しで幸先よく先制するが、先発の上間永遠が2回アストロ打線に掴まり、逆転されてしまう。その直後モンテルのタイムリーで2点を返すと、4回には古川雄大のプロ入り後初ホームランを飛び出し同点に追いつく。5回に再び3点を奪われるも、その裏古川のタイムリー、相手のミス間に打った古川もホームインし同点。6回にはブランドン、7回には古川のこの日2本目のホームランでリードを広げ10-9の乱打戦を制した。
5月10日・横須賀スタジアム
L 002|110|003 7
FD 102|300|001 7
BCリーグ神奈川フューチャードリームスとの交流戦。三軍初の遠征試合。先発のへレラが初回からリズムに乗れず、守備のミスも絡み点をとってもとられる試合展開が続く。へレラが降板すると、三浦、豆田、水上が試合を落ち着かせるリリーフを魅せ流れを運ぶ。2点ビハインドの9回。先頭の川野涼多がライトスタンドへ。押せ押せムードの中今度は相手チームに守備のミスが生まれ、チャンス拡大。仲三河優太のショートゴロフィールダースチョイスで同点にすると、続く野村和輝がきっちり犠牲フライで勝ち越し。裏に追いつかれたもののNPBの意地を見せた。
5月11日・県営大宮
L 003|010|103 8
HB 300|100|130 8
その翌日県営大宮球場にてナイターで行われたBCリーグ埼玉武蔵ヒートベアーズとの埼玉ダービー。先発の赤上が初回いきなり3点で失うが、是澤涼輔のプロ入り後初のホームランなどで試合は2日連続競った展開を伺わせる。8回マウンドに上がったのは前日好投の豆田。しかしこの日はヒートベアーズ打線に掴まり3失点。ラストイニングのみを残した中で試合を決定づけてもおかしくない失点をしてしまう。そして9回表。2日連続9回表先頭バッターの川野が安打、牧野が四球、仲三河が安打で満塁のチャンスを作ると、続くコドラドが左中間を真っ二つに破る2点タイムリーで1点差に追い詰める。続くバッターは9回に強い中山誠吾。振り抜いた打球はレフト前へ。仲三河が帰還し、2試合連続土壇場で同点に。野手10人のみの三軍の選手たちが見せた意地の塊だった。
おわりに
三軍は夢の舞台です。今すぐの答え合わせを求められない挑戦の場です。ミスしても、大敗しても「成長成長☺️」で終われるファンにとっては楽しい場所です。しかし該当選手にとっては試合も少なく映像にも残れない地獄の場。そこから二軍、いや一軍へ羽ばたこうとする若獅子たちが見せるプレーには思いが籠った素晴らしいものです。特に地方球場開催が多いので、ちょっとした遠征にもピッタリ。遠征が嫌な人はぜひカーミニークへ。数年後「あの選手昔はひどかったんだぞー!俺は見たんだ!」って自慢できるように今のうちにスタンドに行ってみましょう。後悔はさせません。必ず今のメンツがスターになりますから。