創作『冥界ホテル』お客様#2-1
「ぉ、ぉはよぅございますぅぅ。」
猛烈な2日酔いだ。
昨晩のナムタルは饒舌だった。
自慢のお料理レシピ、冥界生存術、コンシェルジュ心得などなど、情報量が膨大で消化しきれていない。
…というか、覚えてない。
ひたすらに注がれるビールを煽り続けた結果である。
そして、わたし以上に飲んでいたはずのナムタルは、今、目の前でケロッとして、ギロっとしている。
「その情けない顔をあたしに向けるんじゃないわよ。まったく。自分の飲める量をわきまえて嗜むのが大人のマナーってもんでしょが。」
腕を組み、神経質そうに人差し指をトントンと動かしながらボヤく。
「…面目ない。」
決して酒は弱くない。むしろ、父の血を色濃く継いだ酒豪と言われたものだ。
飲んだ相手が化け物だったのだ。
「二日酔いにはこれが一番よ。」
そう言って差し出されたのは、一杯のスープだった。
柔らかい湯気を立てながら、ほんのり甘さのある優しい香りを放つ。
「ぃただきますぅ。」
スプーンですくい、ふうふうしてから一口。
美味っ!!
冥界版クラムチャウダーだ。角切りの根菜と貝のあっさりしたクリームスープ仕立て。
体に染み渡り、二日酔いの頭痛も胸やけも、引いていく…気がする。
「フブル川の支流の先にある湖でとれた貴重な貝なのよっ。飲みすぎた朝にはコレが一番。」
美味しそうに完食するわたしに満足気な笑みを向ける。
「冥界にも川や湖があって、貝が獲れるのね。魚釣りなんかもできるの?」
「そりゃまぁね。でも、あんたはやめときなさい。獲られる側だから。」
「……はい。」
なんなら、泳いじゃったりしていた自分の想像はすぐにかき消した。
「さ。じゃぁ、今日も早速行きますかっ。」
身支度を整え、最後に胸元のネームプレートの位置をキュッと整えてからカウンターに立つ。
「今日のお客様は1名様。もう着く頃だわ。」
帳簿を確認していると、薄暗い入口の扉が開き、火の玉…いや、お客様がいらっしゃった。
「いらっしゃいませ。ようこそお越し下さいました。」
そう言って、深々とお辞儀をする。
「長旅お疲れの事でしょう。お部屋の準備は整っております。どうぞごゆっくりお休み下さい。」
前回と同じくカウンターの箱が開き、お客様はふわりと跳び上がるとそのままスイっと消えていった。
一言も喋らないのは、余程お疲れだったのか、あるいはシャイな性格なのか。
とにかく、明日は2回目の『記憶の扉』しっかりとお客様をご案内できるように頑張るぞっ✨