創作『冥界ホテル』お客様#2-3
「ココハワタシノモリデハナイ。」
「えっと…。そう思われるのはなぜですか?」
「シズカスギル。コノモリノモノタチハ、ダレモクチヲキカヌ。」
改めて森を見回しながら、耳を澄ましてみる。
草木のざわめき、鳥や虫たちの鳴き声、小川のせせらぎ。
生命の奏でる音に満ち溢れたこの森が、静かすぎるって…
「森の言葉…」
あれこれと思案しながら、ふと左手首に目が留まる。
イチジクウォーーーッチ!!
思わず左手の拳を天に突き上げてしまった…。
LINKアプリでナムタルと連絡が取れる。きっと何か知恵を貸してくれるはず!!
早速、ナムタルにビデオ通話発信。
プルルルル…プルルルル…プル
「あ、ナムタル、今…。」
そこまで言って固まる。
画面に映ったナムタルの顔が…
白お化け。
「なによぉ。今立て込んでるんですけどぉ。」
顔パックしながら、バスローブ一枚でネイルのお手入れをしているようだ。
おいっ。随分寛いでんな。
「いや。その、取り急ぎご相談がありまして。」
「はいはーい。なにかしら?」
「えっと、お客様が来たかった場所はココじゃないとおっしゃってて。そういう場合はどうすれば?」
爪をフーフー乾かしながら聞いていたナムタルが、動きを止めてこちらを見る。
「HadesMAPがあるでしょ?そこに、お客様の旅のヒントになる場所が記されてるはずだから。そこへ行ってみるとイイかもね。」
最後にウィンクすると、そのまま一方的に通話が切れた。
……。
まぁ、必要な助言はあったから良しとする。
早速マップを開くと、現在地と思われる青いマークが地図上に点灯している。
あれ。ここって…。
そこから北上したある場所で、赤いマークが点滅している。今はここへ行ってみる以外、策はない。
「お客様。行ってみたい場所があります。そこに何か手がかりがあるかもしれません。ちょっと遠いかもしれないけど…。」
手首につけたイチジクウォッチの画面を見ながら話していると、フワリと体が浮き、竜の頭上に乗せられた。
頭上にはまるで髪の毛のように、柔らかい草が生えている。
「ソコニツカマッテオイデ。コノチジョウデ、トオイバショナド、ワタシノツバサニハナイノダヨ。」
そう言うと、それまでたたんでいた翼をゆっくりと広げ、大きく一度羽ばたかせる。
もしこの竜が魂でなかったら、森の生き物はみんなその風圧で遥か彼方に飛ばされたことだろう。
竜の太い脚が大地を蹴り、ゆっくりと上昇する。
みるみると地上が遠のいてゆく。
上から見下ろすと、蛇行する川を中心にうっそうとした森が海岸線ぎりぎりまで続いている。
川の上流は高度が高く、幾重にも滝が流れ落ちていた。
西の空が桃色に染まってゆく。
「綺麗…。」
あまりの美しい光景にポツリと声が出てしまった。
「チイサキモノヨ。ナマエハ?」
「あ。自己紹介してませんでしたね。カケルです。よろしくお願いします。」
「カケル…カ、ヨイナダ。ワタシノナハ、エインガナ。」