創作『冥界ホテル』お客様#2-5
「エインガナさん、お願い、待ってーーー!」
『記憶の扉』の中では、体力を使うことなく飛ぶ事ができる。
でも、お客様を見失ってはぐれたりしたら、時間内に扉から戻ることができなくなっちゃうわけで。
なんとしても追いかけなくては!!
お客様であるエインガナが、うっすら光を放ってくれていて助かる。
暗闇の中、その光を頼りに茂みに突っ込み、枝をくぐり、岩を飛び越え、必死に追いかけた。
大きなシダの葉の茂みを突き抜けた時、急に森が拓けた。
ぽっかり開いた空には、びっくりするほど眩しくて大きな月がのぞく。
月の光に照らされて、目の前には鏡のように凪いだ湖の水面が映し出された。
その神秘的な美しい風景に、思わず見惚れてしまった。
いかん!!
手乗りエインガナどこ行った⁈
あまりに明るい月光で、逆にエインガナの光が見つけにくい。
「ルー。チイサキトモヨ。ドウカデテキテオクレ。」
湖のほとり、大きな岩のそばに声の主を見つけた。ゆっくりと近づく。
フワリと着地して辺りを見回すが、どうやら先ほどのネズミカンガルーは見失ったようだ。
イチジクウォッチの画面を見る。今まさに現在地を示す青いマークと、目的地を示す赤いマークとが重なり合っている。
大丈夫、近くにいる。
突然、大地が揺れ、湖の水面が波立ち、ザブンザブンと溢れ出す。
地震⁈
今度は目の前の岩が崩れ始めた。
「ナニヤラナツカシイコエガスル。コレハユメカマボロシカ。」
その声は深く澄んでいて、とても心地よく響いた。声の主は目の前の大きな岩だった。
いや、正確には岩のように見えた、ほぼ化石化した立派な大樹だった。
その大樹が、大地を震わせ枝を起こして、言葉を発しているのだ。
手乗りサイズに縮んでいたエインガナは元の巨大サイズに戻り、大樹と向き合うように湖上に浮いた。
月に照らされ、静かに向き合う大樹と巨大な竜。
なぜだか分からないけど、切なさが込み上げて胸が苦しくなった。
エインガナの瞳から涙が溢れ出す。まるで煌めく宝石のように次から次へとこぼれ落ちる。
「トホウモナイトキガカカッテシマッタ。ソレデモ、イマ、ヨウヤクモドッテキタノダ。ズット、ズット、サガシテイタヨ、エレマニ。」